Codexの大規模展開で見えたAI活用の実態
──モノタロウのAI駆動開発はどのような経緯で始まりましたか?
市原功太郎氏(以下、市原):遡ってみると、原点は2023年のGitHub Copilot全社導入にあります。2024年にはLLMをワークフローに組み込む取り組みも始まり、レガシーシステムのドキュメント自動生成などを試みましたが、CursorやDevinが続々と出てきたことで「自分たちで作る意義はなんだ」という話になりました。2025年以降は世の中にあるツールを組み込む方向に整理し直しています。
──現在の利用状況と生産性への手応えを教えてください。
市原:2024年12月のDevin正式公開をきっかけに草の根的な普及が加速し、2025年1〜3月の3カ月でAIツールの利用者が約150名に達しました。同年3月にAI活用チームを発足させ、体制整備が本格化しています。転換点になったのは2026年1〜2月で、Claude Opus 4.6のリリースがエンジニアに「ほぼ全部任せられる」という信頼感を生み出し、Claude Codeの利用者が1カ月で30名から100名超に急増しました。プルリクエスト数は2026年2月頃から約40〜50%増加し、今もその水準が続いています。
──生産性向上の内訳はどのような状況でしょうか?
市原:OpenAIとの協力のもとCodexを社内に大規模展開したところ、消費トークン量や作業量、並列度に大きな違いがあることが明らかになりました。AIを使うユーザーを3分類すると、AIにほぼ全部自律的に任せている「トップ層(30〜40名)」、普通に活用している「パワーユーザー(150名程度)」、チャット程度の「通常ユーザー(150名程度)」になります。トップ層のプルリクエスト数は右肩上がりである一方、通常ユーザー層は横ばいか微減です。半分の人の生産性がまだ上がっていない状況で、改善の余地はまだ大きい状況です。
次の課題は、トップ層が実践していることを組織として理解し横展開することです。AIに仕事をハンドオフして、AIが自走する間に人間はまた別のAIを起動する。そのループの中でAIが自己改善していく形を作れる人がすでにいる時代になっています。
モデルの進化を成果に直結させる──「AIとの共進化」の実践
──過去の講演でも「AIとの共進化」という概念を提唱されていました。「AIとの共進化」とはどういう概念で、どのような取り組みをされていますか?
市原:2つの意味があります。1つ目は、モデルやAIの周辺エコシステムが賢くなっていく進化を、自分たちの成果に取り込めるかということです。開発力・品質・リードタイムの改善にAIへの投資がメリットとして得られるよう組み込んでいくことです。
2つ目は組織の話です。AIによってエンジニアの役割も変わっていきます。米国ではForward Deployed Engineer(FDE)というロールが高い報酬で求められていますが、ドメイン知識に近いところに組織が配置されて、エンジニアリングとAIの力でレバレッジをかけていく形です。AIをてこに組織全体が進化していくという意味での共進化です。
取り組みとしては、社内育成プログラム「DOJO」や情報共有の場「トレンドラボ」、技術習熟度を可視化する「帯制度」などを整備しています。各部署が自発的にAI駆動開発を推進し、創発的に知識が共有されていく形を目指しています。
──現場のエンジニアのAI活用レベルやマインドセットはどのように変化しましたか?
市原:「格差が埋まったが、それ以上に広がった」と感じています。AIを活用して開発するのはもはや社内の常識となり、主要な作業を手だけで行うのは珍しくなってきています。使いこなせない層は減り、標準的にAIエージェントと会話してシステムを作るのが普通になっています。ただし上位層がすごすぎて、格差はむしろ広がっています。
