「コードを一行も書いていない」──弁護士が1週間で作った許可申請AI
1位を獲得したカリフォルニアの弁護士が解決に挑んだのは、住宅建築の許可申請という深刻な社会問題だ。カリフォルニアでは、この許可申請書が90%以上の確率で初回却下されてきた。署名の不備、条文番号の誤記など書類上のミスが主因で、「家を建てる時間よりも許可を取る時間がかかる」という状況が続いていた。彼はこれを「住宅の危機ではなく、許可申請の危機だ」と捉えた。
彼が開発したソリューションの操作は直感的だ。図面と補正の指示書をドラッグ&ドロップするだけで、大量の並列サブエージェントが一斉に走り、「こういう書き方をすれば通る確率が高くなる」という行動計画をわずか20分で出力する。開発期間はたった2週間。発表しただけでアメリカのある市が導入を検討し始めた。
「自分が優勝したなんて信じられない。コードを一行も書いていないし、一行も読んでいないんだ」──辻氏が語った「課題を言葉にできるかどうか」が問われる時代を、そのまま体現するコメントだった。
他の入賞者も同様だ。3位の心臓専門医が作ったのは、診察後に患者が「先生がああ言ってくれた理由は何だったか」を振り返るためのサービスだ。診察時のボイスレコーダーの内容をAIが整理し、わかりやすい文面にまとめて患者に届ける。ウガンダの運輸省に勤める道路鑑定士は、5週間かかっていた道路の投資判断作業を、ドライブレコーダーの映像をAIエージェントで処理することで5時間に短縮した。いずれも、エンジニアではなくそのドメインの専門家だからこそ発想できたソリューションだ。
ボトムアップとトップダウン──企業でAI活用は「全社97%」まで広がる
この民主化の波は、個人のハッカソンにとどまらず、企業の内部にも着実に波及している。辻氏は海外の2つの事例を紹介した。
1つ目はZapierだ。800人ほどのフルリモートSaaSの会社で、社内の有志がClaudeを使い始め「これはすごい」と話題になった。有志の声により全社ハッカソンが企画・実施されたところ、終了後には社員数を超える800以上のエージェントが社内で生み出され、97パーセント以上の社員が毎日のようにAIを活用し始めた。現場からのボトムアップが全社的な変革を生んだ典型例だ。
2つ目はEpicだ。患者向け医療プラットフォームのリーディングカンパニーで、経営層が自らリーダー会議の場でAIを使って実際に何かを作り、それを社員に見せた。上の人間が自分で使っているという事実が伝わることで全社的な使用が広がり、非エンジニアの社員を含む半数以上がAIを活用するようになった。経営層のデモンストレーションが起点となったトップダウンの例だ。辻氏は「トップダウンもボトムアップも、両方が重要なアプローチだ」と語る。
コミュニティがAI活用の最前線になる
個人や企業内でAI活用が広がる中で、辻氏が重要性を強調するのがコミュニティの存在だ。「コミュニティとは、共通の関心を持つ人々が集まり、互いに育て合うものだ」という辻氏の姿勢に、Anthropicのコミュニティ戦略が凝縮されている。
翌日に開催された「Code with Claude Day 2 Extension」では、FoundersステージとBuildersステージが用意されている。Foundersステージではスタートアップが作ったソリューションを、Buildersステージでは個人の開発者が素晴らしいサービスをシェアする場だ。「ハッカソンで証明されたように、個人がすごいソリューションを作る時代は本当に来ている。企業が求めているようなソリューションを個人が持っているかもしれない」と辻氏は語り、企業と個人が繋がる場としてのコミュニティの意義を説いた。
この日の大きな発表として、辻氏は日本でのClaudeコミュニティアンバサダーの募集を告知した。ハッカソンの企画、仲間との学び合いなど「エンジニアじゃなくても全然関係ない」というメッセージとともに応募を呼びかけた。3月にグローバルで始まったアンバサダープログラムはすでに37カ国107の都市でイベントを生み出しており、日本での展開が本格化する。
「エンジニアじゃない方も、いろんな分野にClaudeが浸透して、いろんな問題を解決できると思います」──辻氏は登壇の締めくくりにこう語った。少子高齢化、地方創生といった日本特有の社会課題に触れ、コミュニティの中でAIを活用した試みが次々と生まれることへの期待を示した。
