コードを書けるかより「課題を言葉にできるか」が問われる時代へ
辻 潤一郎氏は、プレイステーションの開発現場から始まり、Google検索、Google Stadia、Robloxと20年以上にわたってソフトウェア開発の最前線に立ち続けてきた人物だ。現在はAnthropicでDeveloper Community Leadを務め、日本のClaudeコミュニティを育てる役割を担っている。
「ソフトウェアを作る障壁がほぼ消えた」──冒頭でそう断言した辻氏は、技術の民主化はこれまでも何度も起きてきたと指摘する。1980年代の表計算ソフトは、専門知識がなくても複雑な計算をコンピューターに任せることを可能にした。次にウェブが登場し、世界中の情報を個人が発信・受信できる環境をつくり、スマートフォンはそのあらゆる機能を手元に届けた。そしてLLMの登場により、今度は「ソフトウェアを作ること」そのものが民主化されようとしている。
変化の本質は、ソフトウェア開発における「制約の移動」にある。かつてはプログラミング言語の知識という特殊なスキルが参入障壁だったが、今はClaudeをはじめとするAIを使えば、欲しいものを言葉で伝えるだけでソフトウェアが作れる時代になった。辻氏は「課題を言葉にできるかどうかが、最も重要なスキルになっている」と語る。
この転換が意味するのは、技術そのものよりもドメインの深い理解、センス、判断が価値を持つ時代への移行だ。「Anthropicとしては、そのドメインの深い知識は皆さんの側にある。専門家が、この領域のこの問題を理解しているだけで、それを解決できるソフトウェアを作れる時代が来た」と辻氏は強調する。
Anthropicのコミュニティはすでに37カ国、100以上の都市にまたがり、300回近いイベントが開催され、のべ4万人以上が参加している。先月のサンフランシスコ、数週間前のロンドンに続き、東京でも初めて「Code with Claude」が開催されたのは、こうした世界的な潮流の中に日本が位置づけられていることの証だ。
ハッカソン上位の5人中4人が職業エンジニアではなかった
こうした変化を象徴する具体的な事例として、辻氏はAnthropicが開催した「Built with Opus」ハッカソンを取り上げた。世界中から1万3000件の応募が集まり、選抜された500名が1週間でソリューションを開発するという大規模なイベントだ。
その結果が、民主化の実像を鮮明に映し出していた。優秀な上位5組のうち4組が、職業エンジニアではなかったのだ。1位はカリフォルニアの弁護士、3位は心臓専門医、その後に続くウガンダで道路鑑定を行う鑑定士、そしてミュージシャン。エンジニアは2位だけだった。
