3ヶ月で内製。非ITエンジニアが「GenU」を選んだ5つの技術要件
自動車の心臓部を司るエンジン設計の現場では、日々膨大な技術情報やデータが生成されている。株式会社SUBARU(以下、SUBARU)の技術本部 パワートレイン設計部でMBD(モデルベース開発)の推進を担当する本間勇人氏は、実務における「情報を探す」行為そのものに強い問題意識を抱いていた。それがエンジニアの貴重な時間を奪う大きなボトルネックになっていたからだ。
何か調べたいことに直面した際、現場のエンジニアはまず「どのツールを使うべきか」を探さねばならない。社内に乱立するツールは独自の検索条件や入力ルールを持ち、使いこなすだけで一苦労だ。仮に検索結果に辿り着いても、大量の情報に埋もれ、本当に必要な一次情報がどこにあるか分からない。
その結果、別のツールを試す、あるいは有識者へ直接聞いて解消するといった、非効率な「探索の負のループ」が日常化していた。
本間氏はこの課題を解決するため、RAG(検索拡張生成)技術を用いた社内ドキュメント検索システムの検討を開始した。
本間氏自身は、元々エンジンの加速度や応力を測定する「実験屋」の出身であり、ITの専門家ではない。非ITエンジニアが主導するプロジェクトにおいて、強力な足場として白羽の矢が立ったのが、実践的な生成AIプラットフォームのオープンソース「GenU(Generative AI Use Cases JP)」だ。
GenUは、ワンクリックでデプロイできるAWS環境に最適化された生成AIのUIプラットフォームだ。すぐに業務活用できるビジネスユースケース集が標準搭載されており、安全な生成AI環境を迅速に構築できる。
デジタル庁の行政DXツールのベースにも採用されているが、SUBARUが選定した理由は単に無料のOSSだからではない。同社の厳しいセキュリティガバナンスと、非ITエンジニアでも扱える手軽さを両立する要件を満たしていたためだ。
まず環境面では、社内のAWS利用ガイドラインが整備されていたため、非ITエンジニアであってもルールに抵触せずセキュアに導入を進めることができた。
さらにコスト面では、AWSの強みである従量課金制を活かし、極めて低予算でのスモールスタートが可能だった。同様のシステム開発を外部ベンダーへ依頼すると1,000万〜2,000万円規模の見積もりを提示されることも珍しくないが、内製化によって投資リスクを徹底的に抑え込んだ。
また、ソースコードがGitHub上に公開されており中身がブラックボックス化していない「透明性」、フロントエンドがReact/TypeScriptで書かれており独自のカスタマイズが容易な「柔軟性」、そしてAWSの進化スピードに追従し有志コミュニティによって日々アップデートされる「拡張性」が大きな決め手となった。
GenUの導入にあたり、全社配布されている汎用的な社内標準AIツールとの使い分けも明確にした。議事録の作成やメールの推敲、Officeツールの操作補助といった日常業務は全社標準ツールに任せる。一方で、設計マニュアルの検索(RAG)や実務に特化した独自のAIエージェント開発といった専門領域にのみGenUをフル活用するという、ハイブリッドな運用体制を敷いた。
非ITエンジニアの手探りで始めたプロジェクトだったが、GenUという武器を得たことで歩みは驚異的に加速した。本間氏自身のAWS勉強期間を含め、初期検討からわずか3か月という短期間でパワートレイン設計部全域へのシステム展開を完了させた。
コスト面でのインパクトは絶大で、ベンダーへ外注した場合の想定費用と比較して約90%もの開発コスト削減を達成した。発生した費用は、本間氏の工数と実費としてのAWS利用料のみだ。
さらに、導入後の現場アンケートでは、システムの利用有無を問わず部署全体の平均値として「1人あたり月平均2.4時間」の設計開発時間削減という具体的な成果が示された。この実績は社内外で高く評価され、SUBARU技術本部内での「技術アウトプット表彰」の受賞や『スバル技報』への論文掲載、トヨタグループのイベントでの優秀発表者賞獲得、そしてAWS Summitへの登壇へとつながった。
