Notion全社導入がもたらした変化 95%のAI活用率を支えた仕掛け
Notion導入前のメルカリでは、ボトムアップの文化を重視し、部門ごとに異なる複数のツールが併用されていた。各現場の個別最適化の観点では効果的だったが、部門間の連携や協業が増加している状況にはそぐわなかったという。もちろん現場がこの課題を認識していなかったわけではない。エンジニア向けのサーベイでも、ドキュメンテーションは評価の低い項目の上位3つに継続的に入っていた。またAI時代以前に、管理コストを削減するため、小さいツールを統合する試みも行われた。しかし、各チームにとって愛着のあるツールを廃止するのは、利用者の数が少なくても、一筋縄ではいかなかった。
転機となったのは、当時のCTOによる発案だ。同社の経営層は組織のAIネイティブ化を推進しようとしていた。トップダウンの動きがあれば、現場側からも納得を引き出しやすい。ナレッジ基盤の刷新を進める絶好の機会だと判断し、移行に踏み切ったと、廣井氏は振り返る。
Notionを選んだ理由は、次の3点だ。第1に、議事録のようなフロー情報と仕様書のようなストック情報の両方を一つのプラットフォームで扱える点だ。第2に、AI機能の充実度だ。複数ツールでPoCを行ったところ、メルカリではNotionのAI機能が最も活用される結果となったという。第3に、現場にNotionのファンが多かったことだ。社内勉強会には300人以上が参加するなど、熱狂的な支持者の存在は導入推進の大きな追い風となった。
Notionの導入は、さまざまな効果をもたらした。一つは、部門を越えたナレッジ共有だ。同じ基盤を使うことで、エンジニアが他部門へAIの使い方を伝えたり、逆に他部門の知見をエンジニアが学んだりする機会が増えた。単に情報が一つの場所にまとまっただけでなく、部門間の学習を促す接点としても機能したという。もう一つは、AIネイティブ化の促進だ。ドキュメント作成という日常的に行う業務をNotionへ移すことで、その延長線上にあるAI機能に触れる機会が自然と増えた。全社的な利用促進施策を進めた結果、Notion利用者の約95%がNotion AIを利用するまでになった。課題だったサーベイ上でのドキュメンテーション面の低評価も改善したという。
ここでNotion Labs Japanの斉藤氏が、利用者の95%がNotion AIを活用しているという数字を「驚異的だ」と評し、具体的な普及施策について尋ねた。廣井氏の答えは、以下の3つの施策だ。
(1)経営トップからの徹底的なメッセージ発信
さまざまなミーティングの場で繰り返しNotionへの移行を宣言し、同時に旧ツールからのマイグレーション方針も明確に打ち出した。旧ツールが残っていれば利用者はそちらを使い続け、運用コストも発生し続けるためだ。 廣井氏はこれを「メッセージのシャワー」と表現する。
(2)「Central Knowledge Management Committee」の設置
ITチーム、セキュリティチーム、Engineering Officeによるバーチャルチームを組成し、ナレッジマネジメントに関する責任をこのチームに集約した。これにより、問い合わせ対応の窓口が一本化され、現場からの協力も格段に得やすくなったという。
(3)「Agent Day」の実施
全社員が丸一日を使い、Notion AIやスキル機能を含む、複数のAI製品を利用し、エージェントを実際の業務で体験する機会を設けた。
同社では、AIを使う人の割合だけでなく、スキルを利用する人、さらにスキルを自ら作成する人の割合まで計測しているが、現在ではスキル作成者が40%を超えているという。「単にAI利用者が増えただけでなく、自らエージェントを作るなど、より高いレベルの取り組みが増えているのは良い傾向だ」と、廣井氏は評価する。

