Agentic Data Stack──AIが使うための統合スタック
ClickHouseは現在、単体のデータベースにとどまらずOSSエコシステムとして拡大している。AIチャットのLibreChat、LLMオブザーバビリティのLangfuse、オブザーバビリティのHyperDX、データ同期(CDC)のPeerDB、組み込み(インプロセス)版のchDBを傘下に持ち、これらを組み合わせた全体像が「Agentic Data Stack」だ。
中央にClickHouseを置き、基幹系のPostgresとはCDCでリアルタイム同期、外部データはマネージドパイプラインのClickPipesで取り込む。その上にUI層としてClickHouse Agent、ClickStack、Langfuseが乗り、LLMと直接連携する。
ClickHouse Agentは、ClickHouseに格納したデータを自然言語で分析できるAIチャットプラットフォームだ。データの可視化に加えてエージェントやSkillの作成に対応し、DBへの接続はMCP経由となる。特筆すべきはガバナンスで、ClickHouseで管理するユーザー権限に基づき、閲覧してよいデータの範囲でのみ解析できる。松本氏は無料アカウントの作成から「基地局のデータを可視化してください」という指示でダッシュボードが生成されるまでを「全部合わせて5分もあれば終わってしまいます」とデモを交えて紹介した。
ClickStackはAI SREを実現するオブザーバビリティツールで、ClickHouseに格納したOpenTelemetryデータをダッシュボードで可視化する。高圧縮ストレージによりサンプリングせず、全量ログを低コストで長期保存できる。AI駆動のインシデント調査ワークスペース「AI Notebooks」を使えば、AIがログ検索から根本原因の分析までを実施した結果を返してくる。モニタリングのためのダッシュボード作成を指示すれば、再発検知のアラートとともにダッシュボードが自動生成される。
Langfuseは生成AIエージェントの開発・本番運用を支えるLLMOpsプラットフォームで、APIコストや応答時間、会話履歴の一元管理、プロンプトのバージョン管理と評価、テストデータセットによる回帰テストを提供する。
導入実績も豊富だ。Netflixは4万以上のマイクロサービスが生成するログを1日5PB、秒間1250万件で取り込み、500〜1000QPSをミリ秒で処理する(参考:ブログ記事)。クエリの最適化で処理性能が4.3倍向上した。eBayはDruidから移行し、分あたり10億件以上をインジェストしながら30倍の圧縮と90%のコスト削減を実現した。
そしてAnthropicでは、オブザーバビリティとモデル開発の分析基盤として、Claude 4の開発にも利用した(参考:ブログ記事)。松本氏は「Anthropicの社員の方が『これを処理できるデータ基盤って何かありますか』とClaudeに聞いたら、Claudeが『あなたはClickHouseを使うべきだ』と提案した」と採用に至る経緯を明かした。
ClickHouse自身も「AIネイティブなデータ基盤」を構築している。40以上のデータソースを集約し、データ量は14兆行以上、10PB超。BIツールからAIチャットUIへ主軸を移し、社員の50%以上が月間アクティブユーザーとしてデータに触れている。背後ではAirflowがデータをS3経由でClickHouseに取り込み、dbtが変換とマート整備を担う。dbtに記述したテーブルやカラムの定義がそのまま辞書・セマンティックデータとなり、エージェントの探索精度を高める。
さらに質問に対してソースが足りなければDWHに組み込み、辞書や結合関係を「Skill」としてパッケージし、Langfuseで実行内容を観測して知見をフィードバックする循環を回す。回すほど基盤が賢くなる。目指すのは「誰が質問しても、信頼できる回答が得られる」状態だ。
まとめとして松本氏は、データ基盤の役割が「保存」から「AIを賢くする土台」へ進化していることをあらためて強調した。サイロ化されたデータはAIのワークフローを止めてしまうため、統合された基盤の整備が必要になる。そのうえで「スピード・スケール・コストのすべてを備えたClickHouseが、AIの知能を最大限に引き出す」というメッセージでセッションを締めくくった。
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