「こんなこともできるのか」と思える瞬間があるから前に進める──JTBグループが進めた財務基盤刷新
【D-2】JTBグループの挑戦。AIで「過去を報告」から「未来を動かす」財務へ
3年半かけてできあがった「AI-Ready」の基盤
プロジェクトの成果をまとめたスライドには、情報基盤の一元化・標準化、データ収集の自動化・効率化、経営判断の迅速化・多角化という3つの矢印が並ぶ。小川氏は効果は着実に生まれているとする一方、より高い目標を掲げる中での課題を指摘する。
情報基盤はある程度整った。だがデータ収集の自動化と効率化は「まだ道半ば」であり、見たい帳票をすぐに出して経営判断を即時に行える状態も、BIの整備と並行して作っている最中だという。そのうえで小川氏が挙げたのが、基盤としての到達点だった。
「これだけの労力を費やして3年半かけてやってきて、今AIエージェントというものがどんどん採用されていく中にあって、基盤としてのAI-Readyな状態、この状態を作ってきた。このことが今の現状のJTBグループの立ち位置かなと思っております」
この「AI-Ready」な状態を、同プロジェクトを支援した日本アイ・ビー・エムの佐藤氏は技術的な条件として説明する。経営基盤刷新はゴールではなく始まりであり、IBMから見てJTBグループはすでにその条件を満たしているという見立てだ。
根拠の一つは、Oracle Fusion Cloudがテーブル情報を公開していることにある。どのテーブルを見れば仕訳があり、どのテーブルを見れば支払いや請求書があるのかを、AIが理解できる形で持っている。そこへ、グローバルの54社が向かっていった点が重要だと佐藤氏は称賛する。
もう一つは、標準の業務プロセスそのものだ。各テーブルにはデータのステータスがわかる情報が入っているため、どのデータがどこまで進んでいるかをAIが推論できる。データとプロセスの両面が揃って、初めて自然言語での問いかけが成立する。
「『支払い遅延の起きそうなところをデータを分析して返してください』、例えばそのような質問を自然言語でできるといったところが、AI-Readyの本当の意味合いになると思っています」
ERP/EPMは骨格、AIは神経。掛け合わせて「経営の反射神経」が生まれる
刷新した基盤をどう位置づけるか。小川氏は、JTBグループのCFOが社内のプレゼンテーションでも使っているという1枚を示した。
ERP/EPMが骨格、AIが神経、掛け合わせた結果が「経営の反射神経」。データとプロセスの上にAIを重ね、意思決定能力を組織に実装する、という図式だ。
「苦労して作ったERP/EPMもあくまでも骨組みでしかありません。この骨組みに対して、ようやくこれからAIを活用しながら神経を通わせていく。この結果、我々が目指していた高度な経営判断につながるような反射神経が培われていきます」
反射神経とは、必要なときに必要な情報を、判断ができる状態で即座に見られることを指す。この発想の出どころは、コロナ禍の経験にある。
「JTBグループは、コロナの時に約2年半ぐらい大きな収入源が途絶えた状況で、企業として存亡の危機にあったのです」
多角的な事業を展開しようとしたとき、どこで何が起こっているのか、どこにリソースを配分しなければいけないのか。その判断を即時に下すことの重要性に、グループとして気づいたのがあの時期だったと小川氏は振り返る。当時、今日のAIの水準までを具体的に構想していたわけではない。それでもデータ基盤を整え、全世界を自分たちの情報として把握できる状態を目指してきた結果、ようやくそこに近づいてきた。
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- この記事の著者
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中野 佑輔(編集部)(ナカノ ユウスケ)
金融系SIerでの勤務を経て2025年よりCodeZine編集部所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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