「こんなこともできるのか」と思える瞬間があるから前に進める──JTBグループが進めた財務基盤刷新
【D-2】JTBグループの挑戦。AIで「過去を報告」から「未来を動かす」財務へ
新しい基盤を構築したからといって、すぐにAIエージェントを使えるわけではない
では、整った基盤の上でAIエージェントはすぐに機能するのか。小川氏の答えは率直だった。
「新しい基盤を導入・リリースしてから、多くのAIエージェントの提案を受けていますが、すぐに全てを使える状態ではないというのが正直なところです」
自社の業務に何がフィットするかは、改善され続けるエージェントを横目に、一つひとつ検証していくしかない。現時点では標準で備わるエージェントの設定を済ませ、現場に近いメンバーがトライアルで触り始めた段階にある。
その過程で、想定していなかった傾向にも気づいた。海外拠点のほうが、AIエージェントに馴染むのが早いかもしれないというのである。
「海外拠点は少数精鋭で各国に散らばって会計処理業務をやっています。国内の方が重厚な自分たちなりの業務プロセスを作り上げる、逆に海外拠点は割と新しいものにチャレンジして、自分たちのやり方を変えて便利になるなら使っていきたいというマインドを持つ傾向にあります。この点で、もしかしたら海外の方がAIエージェントを試す機会は多いかもしれません」
検討中のAI機能のうち、セッションでは2つが紹介された。一つは元帳ワークスペースで、運送費や配送費が1万ドル以上かつ特定期間の科目残高が閾値を超えたときに、AIが自律的に情報を提示してアクションを促す。
デモでは、ホーム画面に出た運送費と輸送費の増加というインサイトを選び、前会計期間との増加額を確認して「説明する」を選ぶと、変動の要因と関連情報が整理される。サプライヤー別の内訳まで追え、追加の確認は自然な言葉で入力できる。パネルを共有すればメールの下書きが作成される。
佐藤氏は、この画面の設計思想を切り分けて説明した。一般会計のダッシュボード自体は以前からあったが、そこへAIが入り、推論させるべきところは推論させて異常値へのアクションにつなげる。一方で未転記の仕訳の一覧化のような決定論的な処理は、プロセスとしてそのまま出す。その両方を一元管理できる画面構成だ。
「従来の経理業務にあった『締めてから報告してアクションを取る』とフローが変わってきた部分かと思います」
もう一つはプランニングエージェントだ。資金がバッファーを下回る見込みというアラートから週次のキャッシュフロー予測を生成し、要因分析を含む経営報告用のレポートまで作成する。佐藤氏が注目点として挙げたのは、これまでの債権の回収パターンを織り込んだうえで、資金不足に陥るタイミングをAIが予測して返す点だ。グローバルに展開する企業の資金繰りで先回りに使える実例だと位置づけた。
「こんなこともできるのか」と思える瞬間があるから前に進める
締めくくりで、小川氏は社内に向けた課題を口にした。
「こうしたセミナーや色々な紹介を聞いていると、AIエージェントが本当に機能し始めた世界って、すごいワクワクします。そういうワクワクした気持ちを社内にもきちんと伝えていく。そして、そのことに社員たちの気持ちを繋げていくということが今必要だろうと思っています」
ただし、実感を持ってそのメッセージを伝えられている状態には「まだほど遠い」とも認める。正確に数字を整える足元の仕事と、リリース直後の苦労が現にある。それでも急ぐ理由は、経営の時間軸にある。
「今の時代のスピード感でAIエージェントが広がっていった時に、今発想しているような財務会計、資金繰り、経営資源配置、こういうジャッジのスピードは多分どんどん変わっていくと思います。だから今歯を食いしばってでも、これをAI-Readyな状態から実装できて使える状態にしていく。これは経営陣としては急務だと思っていますし、やり遂げなければいけないことだと思っています」
厳しい心積もりだけでは続かない、とも付け加える。「こんなこともできてしまうのか」と思える瞬間があるから前に進める。目指す先も、報告の精度を上げることではない。
「単純な報告ではなくて、本当に経営陣に『いいものが分かるようになったよね』と実感してもらえるようなもの、そんなものを作っていけるように、今後に向けては取り組んでいきたいと思っています」
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- この記事の著者
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中野 佑輔(編集部)(ナカノ ユウスケ)
金融系SIerでの勤務を経て2025年よりCodeZine編集部所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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