近年、生成AIはビジネスの現場に急速に浸透しており、コード生成や情報検索、ドキュメント作成など、さまざまな場面でAIを活用することが当たり前になりつつあります。一方で、この変化はエンジニア教育のあり方にも大きな影響を与えています。特に企業のエンジニア研修では、「生成AIをどう使うべきか」という新しい問いが生まれています。AIを活用すれば教育は効率化できるのか。それとも、学習者の思考力や問題解決力を弱めてしまうのか。その答えの一例として、前後編の2回にわたり、株式会社ギックスが社内の未経験者エンジニア向け研修のために構築した、答えを出さない「自律学習支援AI」について紹介します。後編では、実際のエンジニア研修での活用方法と、導入で起きた3つの効果について解説します。
前編
自律学習支援AIをエンジニア研修でどう活用するのか
当社の研修では、Google CloudやTerraform、Python、GitHub、セキュリティなどの基礎と操作知識を学習します。学習の流れは次のような構成です。
今回の「自律学習支援AI」(通称:ペンギン先輩)は、このうち1・2・3・5(学習計画・コンテンツ学習・習熟度テスト・振り返り)の場面に導入しました。
講師は、AIでは対応しきれない質問への回答や、最終的なレビューを担当します。AIが基礎的な学習支援を行い、人間の講師が応用・実務寄りの指導や理解度チェックを行うという役割分担です。
学習計画:見込み工数×AIで「今日やること」を即決
未経験の学習者にとって、最初のハードルは「計画を立てること自体」です。「今日はテストをどこまで進めるべきか」「この分量に何時間かかりそうか」が見えないため、計画作りにそれなりの時間を使ってしまいます。
そこでペンギン先輩には、各テスト・各単元ごとの見込み工数(所要時間の目安)やテスト名・単元名といった大まかなタイトル情報から学習時間の目安を回答するようにしています。
たとえば学習者は、次のようにかなりラフな形で相談します。
今日はテスト1.1~1.5を進めたい。4時間くらい使える。学習計画を立ててほしい。
ペンギン先輩は、組み込まれた見込み工数とテスト構成をもとに、
- 今日の学習ゴール(例:「テスト1.1~1.5を完了し、○○の概念を理解する」)
- 時間配分(例:「前半2時間で1.1~1.3、後半2時間で1.4~1.5」)
- 各テストに対して参照すべき公式ドキュメントの候補
- 進める際の注意点や、つまずきやすいポイントの事前共有
といった情報を返し、受講者はこれをそのまま1日のタスク表として利用しつつ、必要に応じて細かい調整を行います。
コンテンツ学習・習熟度テスト:エラー原因候補と調査ステップの提示
コンテンツ学習や習熟度テストのフェーズでは、未経験者特有の「そもそもどこを見ればよいか分からない」という詰まりが発生します。
ペンギン先輩には、次のような使い方がありました。
- テスト着手前に「テスト1.2を進めたい」とだけ投げると、テストのねらいや到達目標を整理し、公式ドキュメントのどのあたりを読むべきか、学習ステップを数段階に分解して提案する。
- 学習中にエラーで詰まったら、エラーメッセージやスクリーンショットを共有し、「このエラーが出てしまった。どう切り分ければいい?」と相談すると、「原因候補1~3」とそれぞれに対する対処法の方針・ヒントを返す。
「直接的な解答」を出さず、「原因候補」や「次の一手」を提示するスタイルに徹することで、学習者は、AIが提示した候補を一つずつ試しながら、自分の手でエラーを潰し込んでいきます。
振り返り:AIとの対話でメタ認知を引き出す
1日の終わりには、ペンギン先輩を相手に次のような振り返りを行います。
- 今日できたこと・印象に残ったこと
- つまずいたポイント・時間がかかった理由
- 明日以降に試したい対策や学習テーマ
学習者は、素朴に「今日はここまで進んだ。良かった点と次に改善したい点を一緒に整理してほしい」といった形で対話を始め、ペンギン先輩はその日の対話ログをもとに、以下の3点を整理して返します。
- 今日の総合評価(例:「80点。ゴールに対して○○は達成できたが、△△がやや弱い」)
- 良かった点(Good)と改善点(More)
- 次回の具体的アクション(Next Action)
学習者はこれを、自身の振り返りに活用しています。
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中島 航馬(株式会社ギックス)(ナカシマ コウマ)
2021年に九州大学大学院 理学府化学専攻 修了後、金融系SIer企業を経て、株式会社ギックスに入社。現在はクラウドエンジニアリングスペシャリストとしてデータ基盤/機械学習/AI関連システムの開発業務に従事。 IBM Community Japan(主催:日本アイ・ビー・エム株式会社)が開催する「...
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