はじめに
筆者は、所属する株式会社ギックスにて未経験エンジニア向け研修を運用する中で、生成AIを「答えを出すツール」ではなく「学習の伴走者」として組み込み、自律学習を後押しする仕組みづくりに取り組んできました。
この取り組みは、IBM Community Japanの「ナレッジモール論文」において、優秀賞およびデジタルプラクティス賞を受賞し、審査では、直接解答ではなく学習者の主体的思考を促す設計、実務に近い文脈での検証、教育工数削減と主体性向上の効果といった点が高く評価されました。[※]
そこで前後編の2回にわたり、受賞論文と研修での実践をもとに、研修用AIの設計思想から導入・運用の工夫までを整理し、「なぜその設計にしたのか」「どのような効果と限界が見えたのか」を掘り下げ、実際に得られた知見を共有します。
[※]株式会社ギックス「IBM Community Japan「2025年ナレッジモール論文」にて当社社員の論文が「優秀賞」と「デジタルプラクティス賞」をW受賞」
なぜエンジニア教育は難しくなっているのか?
企業におけるエンジニア教育は、近年ますます難しくなっています。背景には大きく2つの変化があります。
ひとつは、IT人材不足です。経済産業省「ITベンチャー等によるイノベーション促進のための人材育成・確保モデル事業」の試算によれば、日本では2030年に40~80万人規模のIT人材不足が生じる可能性があるとされています。
この状況を受け、多くの企業が未経験者を採用し、社内研修を通じてエンジニアとして育成する取り組みを進めています。
もうひとつは、技術進化のスピードです。クラウド、コンテナ、AIなど新しい技術が次々と登場し、エンジニアが学ぶべき領域は広がり続けています。教育コンテンツを整備し続けること自体が大きな負担になっています。
その結果、企業のエンジニア教育では次の2つを同時に求められるようになりました。
- 教育工数を抑える「効率」
- 技術力を確実に育てる「質」
しかし実際の現場では、この両立は簡単ではありません。エンジニアが講師を兼ねるケースも多く、教育に割ける時間は限られています。さらに、講師の経験や得意分野によって教育内容にばらつきが生まれることもあります。
その一方で、近年教育の現場では生成AIの活用が注目されるようになりました。AIが学習者の疑問に答えたり、学習をサポートしたりすれば、教育の効率化が期待できます。
私たちも、自社で未経験エンジニア向けの研修コンテンツを運用していますが、この「効率」と「質」に関する課題を感じていたことから、生成AIの活用を考え始めました。しかし、検討を始めると新たな課題が見えてきました。
