AI活用が進むと「人間がボトルネック」になる
コード生成の自動化が進んだ結果、今度は何がボトルネックになるのか。泉氏は「それは我々人間だ」と即答した。整備されていないガイドラインをドキュメント化する作業や、自分が介入しなければならないタイミングが減っていく一方で、まだ限界もある。
泉氏は興味深い事例を紹介した。わずか4人しかいないにもかかわらず企業価値が数千億円に達している会社があり、そこの開発者に話を聞いたところ、100倍の生産性向上を実践しているという。ソフトウェアの新しい定義を取り込んだ企業がそこまでの少人数で巨大な価値を生み出せる時代が、すでに始まっているのだ。
梶原氏は、並列でターミナルを立ち上げて複数の開発作業を同時に進められるようになってきた現状を踏まえ、「人間が指示を出すのが追いつかなくなるのが一番のボトルネックになってきた」と語る。加えて、企画・要件定義が決まらないことが開発の詰まりどころになっており、特に顧客インタビューを基に進めるお客様向けアプリ開発では、そこに時間がかかる。AI活用の推進を担うEngineering Officeから聞こえてくる声として、シニアエンジニアのコードレビューが詰まるという問題もあった。AIで大量生成されるコードに対して、レビュアーの負荷が跳ね上がっているという現実がある。
泉氏はエンジニアの役割変化をV字モデルの文脈で説明した。コーディングに大きな時間をかけていた段階から、単体テストも自動生成されるようになり、自分はシナリオを見るだけになりつつある。「V字モデルの上の方に抽象度が上がっていく」という表現で、エンジニアが担う仕事の重心が下流から上流へとシフトしていることを示した。要件定義のような上流工程は戻りにくく、より難易度が高い。受け入れテストの段階では定性的な評価も必要になり、「ここはもう少し滑らかに動かしたいな」といった感覚的なフィードバックをどう仕様として落とし込むかが問われるようになる。
CTOとVPoEに求められる新たな軸
CTOやVPoEの役割はどう変わるかという問いに対し、梶原氏はGENDAのM&A戦略に伴う変化を説明した。グループ会社が増えるにつれ、各グループ会社にグループCTOを設置し、自身はそのCTOたちを支える役割になってきている。AI投資を含む旗振りを担い、グループ会社と経営チームをつなぐ調整役として機能しているという。
泉氏は「CTOの抽象的なレベルでの役割は変わらない」という立場をとった。技術をどう活用して事業価値を上げていくかというコアの役割は一貫している。ただし手法は変わり続ける。VPoEとしての自身の変化として、かつては7〜8人規模のチーム規模が標準的だったのが、ツーピザからワンピザ、つまり2〜3人でチームが立ち上がる規模へとパラダイムが変わるのを実感していると語った。
今村氏はセッションの締めとして、変えるべきことと変えてはいけないことを整理した。変えるべきは制御主体・プロセス・役割・組織と人材であり、変えてはいけないのは顧客価値・品質責任・セキュリティ判断・信頼だ。この2つの軸を両輪として回すことが、AIネイティブ戦略の本質だという。
最後に今村氏は会場に向けて問いを投げかけた。「制御は誰が持っているか」「ボトルネックはどこか」「役割をどう再定義するか」「経営にどう説明するか」。この4つを明日から問い直してほしいというメッセージで、セッションは締めくくられた。AIネイティブへの転換は、技術的な判断だけでなく、経営・組織・プロセスすべてを巻き込んだ変革であることを、3人のCTO・VPoEは実体験をもって示したのである。
