成長を加速させる「上りのエスカレーター」の見極め方
本セッションは、蜂須賀大貴氏とばんくし氏の2名が登壇し、参加者から寄せられるキャリアの悩みに即興で答えていく「100本ノック」形式で進められた。台本や準備資料は一切なく、会場で手が挙がった質問にその場で向き合う、ライブ感の強いセッションである。
Newbee株式会社代表の蜂須賀氏は、エンジニアとしてキャリアをスタートし、プロダクトマネージャー、プロダクト組織の立ち上げ・責任者を歴任したのちに起業。現在は、社外CPOやテクノロジーメディアの運営などを手がけている。
一方のばんくし氏は、中学時代からプログラミングに親しみ、高専ではロボコンや宇宙系競技に取り組んできた技術者だ。機械学習分野で10年以上活動し、現在はエムスリー株式会社でVPoEとしてエンジニアリング組織を率いている。
最初に挙がったのは、「新卒でゲーム会社に入社したものの倒産により無職となり、エンジニアを続けるべきか、将来的に志向するマネジメントやビジネス職へ早期に進むべきか迷っている」という相談だ。
ばんくし氏は即座に「なぜゲーム会社に入ったのか」と問い返す。技術かマネジメントかという2択に飛びつく前に、原点を確認する姿勢だ。相談者は「幼少期からゲームが好きで、プロダクト開発に関わりたかった」と答えた。
相談者の回答を受け、蜂須賀氏は「ドメインへの強い愛着があるなら、まずはその業界で徹底的に経験を積むべきだ」と語る。ゲームの何が好きなのか。それとも、ユーザー体験の設計か、裏側の通信技術か、あるいはチームで1つの作品を作り上げる過程そのものか。どのようなキャリアを選択するにせよ、現場で手を動かし、試行錯誤する中でしか解像度は上がらない。キャリアの分岐点で問うべきは努力量よりも、どの環境に身を置き、何を試すかだという。
ばんくし氏も、ゲーム業界の構造に触れながら補足する。Webやハードウェア領域と比べると、ゲーム業界は技術の横展開が難しい側面がある。サーバーサイドのように応用が利く領域もあるが、オンライン通信など特定の技術は業界依存度が高いためだ。
そのため、必ずしもゲームへの強い思い入れがないまま働くエンジニアも少なくない。だからこそ、ドメインへの熱量は希少であり、明確な武器になり得ると指摘した。
象徴的な例として挙げられたのが、カジュアルゲームの開発手法だ。大量のプロトタイプを投入し、広告の反応をもとに投資対象を選別する。高速な仮説検証を前提とするこのモデルは、従来のコンシューマー型開発とは思想が大きく異なる。ばんくし氏はその点を高く評価しつつ、「ゲーム自体に愛着があるのは大きな強みだ。今好きな分野にさらに踏み込むのも1つの選択だ」と背中を押した。
続いて、高専4年生から「幅広くものづくりをしてきたが、特定の技術を極めるタイプではない。新卒で最初の部署や会社をどう選ぶべきか」という質問が投げかけられた。
この質問に対し、ばんくし氏は率直に「勝ち馬に乗りましょう」と背中を押す。成長している会社やプロダクトこそが、最も技術的チャレンジの機会に恵まれているからだ。売上が伸び悩む組織では、資本は新規挑戦ではなくコスト削減や撤退対応へと向かう。結果としてエンジニアの仕事も、新技術の導入よりサービスの縮小対応が中心になりがちである。スタートアップであれ大企業であれ、その構造は大きく変わらないという。
だからこそ、伸びている、あるいは伸びる可能性の高いプロダクトに身を置くことが重要だ、というのがばんくし氏の意見だ。自分の興味やスキルが活かせる領域であり、なおかつ市場の追い風が吹いている場所を選ぶ。それが成長を加速させるレバレッジになるという。
蜂須賀氏もこれに強く同意し、「上りのエスカレーターに乗ろう」と話す。業界や企業、さらには社内の部署にも上りと下りがある。同じ努力をしても、上りの環境では成長曲線は加速し、下りでは相殺される。環境選択こそが成長速度を左右するという視点だ。
ばんくし氏はここで、自身の経験を振り返った。新卒で入社した当時のSansan株式会社はまだ小規模だったが、大きな市場を狙っており、競合も少なかった。経営陣が本気で議論を交わす熱量のある組織で、成長の兆しが明確だったという。
