約1,200法人グループ・570万人を支える基幹システムが挑む「価値提供のさらなる進化」
大企業向けの統合人事システム「COMPANY」は、約1,200の法人グループ、約570万人分[※1]の人事データを支える、国内ERP市場の人事・給与分野でシェアNo.1[※2]の製品である。個社ごとのカスタマイズを行わず、標準機能のみで対応する方針を30年間貫いてきた点が、同製品の最大の特長だ。
[※1]2025年12月末時点の「COMPANY 人事」の契約ライセンス数合計
[※2]2024年度 ERP市場 - 人事・給与業務分野:ベンダー別売上金額シェア(出典:ITR「ITR Market View:ERP市場2026」)
あらゆる大企業の複雑な業務に対応できる圧倒的な網羅性を備えているからこそ、そのポテンシャルを最大限に引き出す提案手法のアップデートにも力を注いでいる。Works Human Intelligence(以下、WHI)でプロダクトマネージャー(PdM)を務める杉田生楽氏は、「選択肢が極めて豊富だからこそ、お客様の業務に合わせた『最高の活用形』をいかにシンプルに提示できるかが鍵になります」と語る。身上届や通勤手当、年末調整といった申請ワークフロー・情報照会を担う「COMPANY Web Service」だけでも15のドメイン領域に80ものサブシステムがあり、あらゆる運用に対応可能な柔軟性を備えている。
日々寄せられる膨大な問い合わせやご要望に対して、ただ目の前の課題を解決するだけでなく、プロダクトとしての本質的な価値へ還元していくことが重要だと杉田氏は語る。
開発現場を最大化する「ドメインエキスパート」と「プロダクトマネージャー」
この挑戦を加速させるカギとして、WHIは2つの役割を置く。製品に向き合うことで培われたドメイン知識をもとに組織をリードする「ドメインエキスパート」と、お客様の要望に真摯に向き合いながら本質を見極め、選択と集中を行う「プロダクトマネージャー」だ。
この中でもドメインエキスパートが掲げるミッションは、BugFixかFunctionかを問わずドメイン知識が必要となる案件のレビューに参加して貢献することと、ドメインエキスパート自身が課題だと感じた製品課題を裁量を持って解決することの2つだ。前者で「開発案件の質の向上」、後者で「開発工数の確保」に貢献し、組織全体を支える仕組みである。
杉田氏はまず、製品が抱える豊富なノウハウとの向き合い方について、ドメインエキスパートを務める長井弘明氏に話を振る。豊富な機能を備えているからこそ、複雑な仕様の組み合わせを紐解くには相応のキャッチアップが必要となる。「豊富なノウハウをより扱いやすく、価値として引き出しやすくする」ためのアプローチをいかにして長井氏は行ったのか。
膨大な選択肢を「体系化」し、価値提供を加速させる挑戦
「COMPANY」の高い業務網羅性を最大限活かすためには、各社の状況を正確に把握した上でベストマッチな設定を行う必要がある。長井氏は以前、コンサルタントとして複数の企業への製品導入を経験するなかで、自由度が高く、あらゆる業務に対応できる「COMPANY」のポテンシャルをより短期間で実感してもらうための方法はないかと考え続けていた。
そこで長井氏は、お客様の業務をスムーズに製品の設定に落とし込む「標準設計」、お客様の最適な利用形を示す「標準設定」、そして円滑な立ち上げを導く「標準導入手法」という3つの要素を「ベストプラクティスとして体系化する」ことの重要性に行き着く。あらゆる業務パターンをカバーする巨大なプロダクトだからこそ、その広大な機能群から最適解を抽出し、誰でも即座に活用できる形に整理するのは非常にやりがいのある挑戦だった。
長井氏は「自由度が高いからこそ、あえて推奨の型を提示することで、導入のスピード感は格段に上がる」と考える。製品のほぼすべての画面・機能を一から見つめ直した結果、膨大なパラメーターの中にも規則性を整理した結果、パッケージとして推奨したい「推奨の設定」、業務運用に応じて自ずと決まる「業務の設定」、見た目の好みで決めてよい「任意の設定」の3つに分類をした。
分類が明確になったことで、設計と設定の方針をテンプレート化して提供可能になった。こうして生まれたのが、設定ファイルと解説ドキュメントをセットで提供する「設定テンプレート」だ。ファイルを取り込むだけで、画面や制御が完成した状態からスタートできる仕組みを整えたことで、WHIが培ってきたノウハウの言語化と、お客様の導入スピード向上を同時に実現した。
個社からの要望を、全社向けの標準機能に育てるには?
機能の標準化の具体例として長井氏が挙げたのが、個社からの「異動発令の申請」機能への要望だ。「COMPANY」には、従業員の所属を変更すると事業所などの項目が組織図に基づいて自動入力される機能があるが、この自動入力は組織図記載の内容と強制的に連動する仕様だった。だが、あるお客様から「対象者がイレギュラーな場合は、申請者による上書き入力を可能にしてほしい」という要望が寄せられたのだ。
開発者は1社のみから要望を受けた段階で、「個社特有の要望なのか」「自動入力の対象となる事業所(勤務先の拠点)以外の項目にも影響するのか」を判断しかねていた。このまま開発を進めれば、個社向けかつ特定項目の専用機能として作り込んでしまいかねない状況だった。長井氏は「個社か全社か」「業務の汎用性」という2つの軸で要望を整理。他社でも同様の要望を聞いたことがあるという経験、そして原価がプロジェクト単位で発生し組織と一致しないケースがあるという知見から、この要望は個社固有ではなく、全社で想定できるイレギュラーだと判断した。長井氏はこの内容を設計書に起こし、開発者に対して汎用的なドメイン機能になり得ることを示した。
このように、個社の要望の背景にある「業務の本質」を深く分析することで、プロダクト全体の価値向上へとつなげることができる。個社要望からエッセンスを抽出し、パッケージ製品としての正解を作り上げた事例だと長井氏は振り返る。こうした判断を、長井氏は日々どれだけの案件で重ねているのだろうか。
半年でレビュー152件、開発者の「伴走者」としてのドメインエキスパート
長井氏は2026年上期の6カ月間で、BugFix67件・Function85件、合計152件の案件レビューに参加してきた。ただし目標はレビュアーとして参加することそのものではなく、「提案と実行でサポートすること」にある。設計書やリリースノートの作成、お客様からの問い合わせ対応、その逆のヒアリングなど、製品開発者だけでは対応しづらい業務についても、一緒に書く、聞く、回答するという形で実行と代行を徹底している。開発者がなるべく開発に専念できる状態にしたいという思いからの活動だ。開発者にとって「ブロッカー」ではなく「伴走者」として機能することで、開発工数の確保に貢献するねらいだ。
杉田氏は長井氏の取り組みを振り返り、「パッケージ製品として提供することで多くのお客様に価値を提供できる一方で、ご要望を標準機能として提供する難しさもあります。だからこそ、多種多様なご要望の「本質」を見極めていく必要があります。」と語る。
製品が抱える豊富なノウハウに対してすべてを網羅しようとするのではなく、組織的に標準を定義していくことで、正解を提案する側に回れば武器になる。こうして開発者一人ひとりがドメイン知識という武器を持ってスタートラインに立てるようになれば、お客様の本質的な価値追求に集中できる。それこそが、単なる保守運用ではない、心から面白いと思えるものづくりの姿だと杉田氏は語る。
ドメイン知識こそ、エンジニアの独自性になる
杉田氏は最後に、生成AIの進化によってコードを書くスピードや技術的課題の解決スピードが劇的に向上し、誰もが素早く開発できる時代が到来していると指摘した。だからこそ問われるのが、プロダクトの差別化要因とエンジニアの価値はどこにあるかということだ。その答えについて、杉田氏は「テクノロジーの力だけではたどり着けない、蓄積してきた業務ノウハウや、お客様の声の裏にある本質を理解する力、すなわちドメイン知識にほかなりません」と語る。
技術がどれだけ進化しても、「誰のために、何を、なぜ作るのか」を決めるのは開発者自身であるべきだと2人は強調する。お客様の声の先を見つめ、ドメインの力を最大の武器にして期待を超える価値を作っていくという姿勢は、大規模な基幹システムに限らず、あらゆる保守・運用の現場に持ち帰れる視点だろう。
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