1億5,000万ステップの勘定系をどう変えるか? 三菱UFJ、40年物メインフレームのモダナイゼーション
【17-B-1】エンタープライズアーキテクチャにおけるモダナイゼーションへの取り組み
三菱UFJ銀行の勘定系システムは、1987年の第3次オンライン以来、約40年にわたって同じアーキテクチャの上で機能追加を重ねてきた。内製システムだけで約1億5,000万ステップという巨大さは、もはや「刷新するか延命するか」の二択では語れない。三菱UFJインフォメーションテクノロジー(MUIT)の鈴木重統氏は、Developers Summit 2026 Summerで、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の視点からこの巨大システムを分解し、変わる領域と変わらない領域を切り分けたうえで、メインフレームとコンテナ基盤のハイブリッド戦略に至った経緯を語った。生成AIエージェントで実際にPL/Iコードを生成させた実証からは、トークン上限という現実的な壁も見えてきたという。
40年成長を続けた勘定系、「変わらない領域」に潜む歪みの正体
三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社(MUIT)は、三菱UFJ銀行や三菱UFJ信託銀行、三菱UFJニコスなど、MUFGグループ各社のIT・デジタル戦略を担う企業だ。鈴木重統氏はエンタープライズコンピューティング本部の副本部長とコアバンキングインテグレーション部の部長を兼任し、メインフレーム環境の管理を担当している。
鈴木氏が最初に示したのは、勘定系システムのタイムラインだ。1987年の第3次オンラインシステムを起点に、アーキテクチャの骨格をほとんど変えないまま、約40年にわたって機能を継ぎ足しながら稼働を続けてきた。2000年代前半までは規制緩和やチャネル・プロダクトの段階的な追加による「連続的な変化」だったが、2000年代後半以降はインターネットやモバイルバンキングの急速な普及、AIやブロックチェーンといった破壊的技術の出現により、「非連続的な変化」へと質が変わった。事業の進化スピードがシステムに大きく依存する以上、システムの柔軟性やアーキテクチャそのものが競争力を左右する時代になったというのが、鈴木氏の現状認識である。
ここで鈴木氏が強調したのが、「モダナイゼーション=脱メインフレーム」という単純な図式への違和感だ。UI/UXを担うチャネル層は市場の変化に追従して継続的に進化・再構築される一方、勘定系コアを含むバックエンド層は長期間にわたって同じ機能を提供し続け、業務追加のたびに複雑化してきた。この「変わる領域」と「変わらない領域」の間に歪みが生まれ、部分最適の積み重ねによって全体最適が損なわれていく。鈴木氏は、この歪みを解消することこそがモダナイゼーションの本質だと位置づけた。
「ITの都市計画」としてEAを導入し、レイヤーで課題を可視化する
この歪みに向き合うための拠り所として鈴木氏が紹介したのが、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の考え方だ。EAとは、ビジネス目標を達成するためのIT投資とシステムデザインをガイドするフレームワークであり、いわば「ITの都市計画」に当たる。導入の目的は、業務戦略とシステム設計の整合性確保、個別最適から全体最適への転換、投資判断の指針確立にある。副次的な効果として、大規模システムの可視化や組織内コミュニケーションの改善、アーキテクトの育成にまで及ぶという。鈴木氏は「モダナイゼーションは技術刷新ではなく、全体設計の問題だ」と位置づけた。
MUITはこの考え方に基づき、レイヤー・アーキテクチャを基本アーキテクチャとして採用している。システム全体をアプリケーション・データ・テクノロジーの3レイヤーに分け、さらにアプリケーション層を「チャネル(顧客接点)」「ビジネスフロント(業務機能)」「連携基盤(システム接続)」「バックエンド(基幹業務)」の4層に細分化する。システム開発の際にはこの機能配置とレイヤーを明確にすることで、新規システムの最適な配置と機能分割を判断し、全体最適を意識した設計を行っているという。
このレイヤー構造を当てはめると、チャネル・ビジネスフロント層は柔軟性・拡張性が求められる「変化が速い領域」、バックエンド・データ層は安定性・信頼性が求められる「変化が遅い領域」として整理できる。MUITが実際に構築・運用しているのは、連携基盤からバックエンド、データの一部までの範囲であり、この基盤はIBM Zで構成されている。
会員登録無料すると、続きをお読みいただけます
この記事は参考になりましたか?
- Developers Summit 2026 Summer セッションレポート連載記事一覧
- この記事の著者
-
近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)
株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
-
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
