「良い技術が採用されなかった」のはなぜか?
渡邉洋平氏はNTTテクノクロスに所属しながら、AWS Ambassadorやコミュニティ「JAWS-UG 東京」の運営を務めるなど、その活動は多岐にわたる。2026年5月には『Agentic Coding 生成AI時代のシステム開発入門』を上梓し、コーディングエージェントの分野でもアウトプットを続ける。そんな渡邉氏が今回のテーマに据えたのは、「技術選定」だった。
渡邉氏は冒頭、現場の技術選定で向き合う難しさを、身近な例に変換して解説した。舞台はラーメン屋。やる気のある職人が「もっと麺の道を極めたい。手打ち麺を追加していいですか」と申し出るところから、4つの結末が順に示される。
Take1は賃上げ交渉の決裂だ。手打ち麺は完成したが仕込みの負担が大きく「今の給料だと厳しい」と訴える職人に、店主は「お前がやりたいと言ったんじゃないか。給料はそのままだ」と返す。満足のいく待遇を得られず、職人は辞めていった。
昇給を受け入れるTake2では試算が示される。粗利率を約33%と仮定すると、職人の月給を5万円上げるには売上を15万円、つまり850円のラーメンを従来より180杯多く売る必要がある。これは、月間販売数2000杯の約10%だ。顧客は味の向上に気づくが、通う頻度を上げるほどではなく、ラーメン屋は立ち行かなくなる。
職人の給与を向上するためのコストを顧客に転嫁するTake3では、1杯あたり約80円の値上げが必要で、850円が930円になれば常連の来店頻度が落ちて赤字に転落する。残るTake4は手打ち麺の導入見送り。「儲からないからそのままだ」と言われた職人は、やはり辞めてしまった。
ラーメン屋の事例は一体何を示すのか。渡邉氏は続いて、同じスライド構成を顧客・エンジニア・プロジェクトマネージャーの立場に置き換えて繰り返した。「もっと技術力を高めたい。チームにテスト駆動開発を取り入れていいですか」から始まる4つの結末だ。
良い技術を採用しても待遇が良くなるとは限らず(Take1)、組織にも(Take2)、組織の外にも(Take3)利益をもたらすとは限らない。短期的には現状維持が「マシ」になってしまう場合もある(Take4)。
