既存インフラはそのままエージェント向けには使えない
インフラについて乙部氏は、人間の作業環境をそのままエージェントに渡すことはできないと述べた。世界の知識労働者、いわゆるナレッジワーカーは約10億人とされる。仮に1人1体のエージェントを持ち、そのエージェントが作業用にCPUを1つ必要とすると、約10億個の新しいCPUが要る。一方、世界のサーバー用CPUの生産能力は年間約3,500万から4,500万個とされる。必要な量はその約20倍にあたり、用意するまでに単純計算で20年かかるという。
「今、AI会社はモデルを学習させ推論処理をするためにGPUが足りないと騒がれているが、実はGPUだけではない。動き出したAIが手足として使うCPUのニーズも飛躍的に高まってくる」(乙部氏)
台数を用意できたとしても、既存環境をそのまま渡せばよいわけではないとも指摘した。ラップトップやハイパースケーラーのクラウド基盤は、決まったアプリケーションを動かす用途に適している。一方エージェントは、タスクごとに新しいアプリケーションを作り、自らコードを書いて検証し、同時並行で動かす。決まった環境に毎回アプリをインストールする方式は、エージェントの作業には向かないとした。
V8エンジンベースのAIエージェント向け実行基盤「アイソレート」
同社がエージェントの実行基盤として挙げるのは、アイソレート(Isolates)と呼ばれる技術だ。サーバーレスサービス「Cloudflare Workers」の基盤として使われており、GoogleのV8エンジンを利用する。コンテナ環境のようなランタイムを必要とせず、動かしたいアプリケーションのコードだけを即座に実行できる。
コンテナ環境ではアプリケーションごとにランタイム環境が必要になるが、アイソレートは全体を管理するランタイム環境の中に、アプリケーション単位のアイソレートを水平展開で起動する。「イメージとしては、Chromeのタブを立ち上げるような感覚で新しい環境をどんどん作ることができる」(乙部氏)
コールドスタートが速く、必要のないときはゼロまでスケールダウンできる点も特徴に挙げた。コードを次々に実行し、環境の作成と破棄を繰り返すエージェントの用途には、モノリシックなOSベースやコンテナ環境では対応できないという。「アイソレートは弊社も人間のアプリを作るために作った基盤だったが、これがAIエージェントにものすごく適していた」(乙部氏)
同社は以前からエージェント向けのサンドボックス機能やコンテナ機能、Agents SDK、複数モデルへの接続を集約するAI Gatewayを提供してきた。2026年8月のAgents Weekでは、これらにKitesurfと@cloudflare/computerを追加した。
Kitesurfは、Workers上で動作するエージェント向けの軽量ブラウザー。処理のオーバーヘッドと不要な情報を削り、エージェントが求めるテキストデータの取得に特化する。@cloudflare/computerは、アイソレートとOS依存のコード用コンテナの双方からアクセスできる仮想ファイルシステムを提供する。
これらの基盤は、OpenAIやAnthropicのエージェント基盤にも採用されているという。乙部氏は、世界のAI企業の約8割が何らかの形でCloudflareを利用していると述べた。
