開発速度を意識した「柔軟な運用」とは?
このように、答えを探る高速サイクルを支えるには、スピード感のある実装力が不可欠だ。WHIでは、素早い開発のために主に2つの手法を活用しているという。
1つ目は、Kotlin MultiplatformとCompose Multiplatformの掛け合わせだ。これにより、ロジックもUIのKotlinのみで記述することができ、iOSとAndroidの同時開発を可能にしている。もう1つが、AIの活用だ。GitHub Copilotはもちろん、自律型AIのDevinなどを使った開発も行っているという。
こうしたツールで作業を効率化し、開発を加速することはできるものの、サイクルを回し続けるには「作り続ける」ことが必須だ。しばらくすると「『どう作り続けるのか?』の壁にぶつかった」と福島氏は言う。具体的には、以下の3つの壁が立ちはだかった。
1つ目は、マルチプラットフォーム特有の運用の壁。iOSとAndroidの両方に対応しているため、パイプラインが分かれている。管理ツールが物理的に異なっており、それぞれの挙動の違いをうまく把握しながら管理することは非常に難しい。テスト環境や本番環境の違いもあるので、複数パターンをうまく管理する方法は今も模索しているという。
2つ目は、開発サイクルの変化に伴う壁だ。新製品の場合、スピード重視で形にするフェーズもあれば、品質向上やリスク回避を優先すべきフェーズもある。製品の成長段階によって求められる対応が変化するため、エンジニアには高い柔軟性が求められる。
3つ目は、新製品としての信頼性の壁だ。同社は国内大手約1,200法人グループが利用する製品群を提供している。「COMPANY」ブランドの一部としてリリースする以上、高い信頼性の確保は絶対条件だ。開発が進むにつれてQA(品質保証)のレビューやテスト工程の負荷が増大し、ここでもエンジニアの対応力が試される。
福島氏は「スピードと質の議論は長年のテーマだが、AI開発で速度が上がった分、品質担保プロセスの停滞が顕在化しやすくなっている」と分析する。
これら3つの壁を乗り越えるための対策として、自動化を増やすことや運用ルールの明確化、ドキュメント整備などの案が考えられる。しかし、頭ではわかっていても実行にはチームの基盤とリソースが必要だ。限られた時間をできるだけ開発に使いたいという意向もある。そこで、同社では「運用改善を開発のついでにするチーム文化」を目指すことにしたという。
具体的には、PRのテンプレート作成やGitHub Actionsの整備など、メンバー自身の開発生産性も上がるような運用改善を日々の開発タスクとセットで実施した。加えて、マネージャーや運用担当者ではなく、3年目以下の若手メンバーが主導する点が特徴だ。
「開発のついでに自発的に問題提起を行い、解決策を提案する。チームミーティングでの議論を経てしくみ化することで、経験の浅い若手でも運用に参画するハードルが下がり、属人化の解消にもつながる」(福島氏)
開発と運用の役割を互いに越境できることも、チームによい影響を与えている。福島氏自身、以前は運用が中心だったが、現在は運用視点を生かして「COMPANY Me」の開発改善に携わっているという。
福島氏は現在のチームを「それぞれの視点から運用と開発を改善し続けられる『フルサイクルなチーム文化』が定着してきた。より複雑な運用課題にも挑戦できる準備が整っている」と評する。
結果として、継続的な開発を阻む3つの壁を乗り越えつつある。「信頼性に関してはまだ途上」としながらも、変化に対応できる強固なチームが形成された。
「何を作るか」「どう作り続けるか」という2つの問いに対し、エンジニア主導で道を切り開いてきた同チーム。今後は社内のドッグフーディングで得た知見を、実際のユーザーの声へと置き換えていく予定だ。
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