残ったのは「それって楽しい?」という問いだった
最後の論点は、効率とも育成とも別の場所から出てきた。
「早く走りたいとなる前に、走るのが楽しいって体験がないと走ろうとも思えなくなりそう」
「楽しい体験をAIに奪われるのはつまらないよね」
「AIに全部任せるって話、そもそも人間は何を望むのかって話のような気持ち」
20分のあいだ「AIがやったほうが早いことを人間がやるのはセンスがない」と押し切ってきた広瀬氏は、最後のまとめでこの種の投稿を拾った。
「今日、めっちゃ僕、わざとスタンスを取ったので、ちょっと嫌な人間に見えたかもしれないですけど」
そのうえで、この日いちばん浮かんだ問いとして挙げたのは、自分の主張ではなく、会場の匿名の一言だった。
「『なんかそれって楽しい?』という問いがめっちゃ浮かびましたね。うん、確かにそのとおりなんですよ」
「人間らしい」とか「豊かだ」ということが、結構遠くに行ってしまう。シビアな世界線になる。豊かになるための道具のはずが、突き詰めるほど豊かさのほうが遠のいていく。それなら、何のためにAIはあるのか。極論を張り続けた20分の最後に残ったのは、この逆説だった。
「AIだけがやるという世界線って、人間が本当に生物として生き残るだけ、という世界線に近いのだろうなと思って」
「結局、豊かになれたのに意味がない、みたいなところはやっぱりあると思うので、そういう話をしたいなって、改めて」
木下氏が最後に挙げたのも、答えではなく問いだった。広瀬氏が置いた「自家発電できる」という言葉は、その人個人が持っている能力を指すのか。それとも、自家発電できる環境やマインドのほうを、あとから育てることができるのか。
会場がSlidoに残した問いのいくつかは、そのまま宿題になっている。
「自家発電人材はどう育つか、見つけるか」
「良い問いを立てるためには何が必要?」
このセッションのゴールは、問いが1つでも増えることだった。123件の投稿は、その達成を記録したログでもある。

