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【製造業IT最前線】ハード×ソフトでリアルを動かす!

なぜ村田製作所は社内で「FDE的な活動」を進めるのか──異業種出身のエンジニアが伴走する価値

同じ物質でも「固形」と「液体」で入れるべきテーブルが異なる

 難しさの出どころは、要望の来方にある。事業部からは「この情報はこのテーブルに入れてください」と断定ありきで要望が来る。ところが実際に見ると「あれ、その情報は実はこっちのテーブルの方が正しいのではないか」となる。1つ1つ深掘っていくと、非常に時間がかかる。

 AIも活用しながら、事業部に投げる質問を絞り込んでいくのだが、その質問の精度を上げること自体が難所だった。「正しいデータモデルを見極めるためには、我々が質問の精度を上げていく必要があります。この点は、ものすごく苦労しましたね。」

 具体例として挙がったのが樹脂のモデリングだ。「樹脂1つとっても、固形と液体があって、そうなると固形の場合と液体の場合で次のフェーズが変わってきます。そういうのをじゃあどうやってデータモデルとして管理していくかというのはすごく難しいです。」加えて、「その項目と紐づく関連先が、1対1なのか1対多なのか、大きな影響を及ぼす部分を判断していかなければなりません。」それが暗黙の前提として要望に乗ってくるため、「ヒアリングしていく中で隠れた前提を解き明かしていく」ことになる。

 問題はモデルの構造だけではない。「そもそもこのデータの項目は何なの、みたいなのがいろいろ出てきます」と林氏は言う。人によって呼び方が違い、業務で使われている名前とデータ管理として持ちたい名称にもギャップがある。それでも要望は受け止めなければならない。栃川氏は、「一定相手の要望を受け入れながらも、技術的なところでいくと、システム上の致命的なリスクは避けるようにしています」と実際の苦労を話した。

 とはいえ、小さな違和感に気づくこと自体、最初のうちは難しいはずだ。林氏はドメイン知識の少ない状態でも違和感に気づく工夫として、「アウトプットでどう使いたいか」から考えることを挙げる。「最終的にこの項目はどう使われるのですか」と深掘っていくと、「じゃあ本来そこで管理すべきではないよね」ということがおのずと見えてくるのだ。

 この視点は、ローコードで業務システムを作ろうとしていた時期、「仕組みをとりあえず箱だけ用意したのですが、誰がどう使っていくのかの業務プロセスの設計がうまくいかなくて、データを入力するフェーズまでたどり着けなかった」経験から生まれた。そこから得たのは「ただ単に箱を用意したところで何も意味はない」という結論だ。

異業種出身のエンジニアが伴走することで生まれる価値

 順風満帆に見えるDX推進にも課題がある。栃川氏が挙げたのはチェンジマネジメントだ。理想は大きくなる一方で、スキルの習熟が追い付かなければギャップが生まれ、最終的にやらない理由だけがどんどん積みあがってしまう。

 だから大事にしているのは事業部に対して、「できるんだ」と思える状態をつくることだ。たとえ完成度が100%でないものであっても、モノを作ることで事業部から「いやいや実はここはこうで」と情報が吸い上がってくる。「『できそう』というのを事業部の中にいかに醸成していくかというのはポイントです」と栃川氏は話す。

 林氏が挙げた課題も近い。一般的なDX推進の現場において、会議や議論だけが続いて煮詰まり、「今期の成果が何ですかと言われたら、よくわからない抽象化された資料だけが残っている」というケースは珍しくない。そこで村田製作所では、まず動かせるものを一発作り、そこからフィードバックをもらうことに集中した。「やはりものがないと事業部の方々もなかなか何をしたいかを言語化できない」。そしてそれを出すスピードは、AIによって変わったという。

 作ったものは、どこかで事業部に渡さなければならない。そのために事業部からは一定のIT知識がある人を出してもらい、一緒にサイクルを回して開発できる状態にした。レビューを任せ、自立したら主導を渡す。栃川氏はその渡し方を「少しずつ影を薄くしていくみたいな感じ」と表現する。

 では、事業部にAIエージェントを配り、ドメイン知識を持っている人がコーディングするのとは何が違うのか。

 栃川氏が挙げたメリットは以下の2点だ。1つは前に進める意識。事業部は自分たちが使うからこそ細かいところに目がいきがちで、前に進みづらい。「まずは手触り感を大事にしながら80点を早く出しにいくというところは、我々が外部だからこそぐっといけたのかもしれません」。もう1つは疑いの目だ。「事業部の常識から外れて、『これってこうなんじゃない』という先入観のない目線が大切になることもあります」

 林氏が挙げたのは、着手のハードルだ。「環境さえ用意してあとはやってねと言っても、なかなかできないのが現実」。事業部の担当者にはそこにフォーカスできるリソースがなく、最初のハードルが高い。「そこを一緒に隣に立って、一緒に歩ける人がいることで、今取り組みが前に進んでいます。」林氏は伴走の効果を強調する。

村田製作所 経営DX本部 ITビジネスエンジニアリング統括部 ECM・DCMバリューチェーンDX推進部 ECM基盤構築推進課 林恵史郎氏

 最後に、同じようにDX推進を任された人へのメッセージを聞いた。林氏が挙げたのは、最初に陥りやすい落とし穴だ。DX推進は全社横断のトップダウンで行われることが多く、「結構話が大きくなりがちで、物事が前に進みづらくなります」。だからこそ、最初から完璧な共通化や標準化を目指しすぎないほうがいい。特定の事業部に入り込んでそこでの正解をまず作り、クイックウィンを取りに行く大切さを説く。

 栃川氏は最後にこう話した。「私たち自身もまだ模索しながら進めている途中ですので、自社だけで正解を探すというよりは、同じような状況にある方々と情報発信しながら、1社だけではなかなかたどり着けないようなやり方というのを、みんなで生み出していけるといいのかなと考えています。」村田製作所のDX推進は、事業部と伴走しながら少しずつ、確かに進んでいる。

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この記事の著者

中野 佑輔(編集部)(ナカノ ユウスケ)

 金融系SIerでの勤務を経て2025年よりCodeZine編集部所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

関口 達朗(セキグチ タツロウ)

フリーカメラマン 1985年生まれ。東京工芸大学卒業後、2009年に小学館スクウェア写真事業部入社。2011年に朝日新聞出版写真部入社。2014から独立し、政治家やアーティストなどのポートレート、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。2児の父。旧姓結束。趣味アウトドア。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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