人間に最後に残るのは「理解する」仕事
では、文章を書く仕事はどうか。良い記事かどうかの判断をAIに持たせられるかと尋ねると、ショーニング氏はAIに書かせること自体に賛成しなかった。
「書くことは考えることです。ほとんどの物事がどう動いているのか、もう誰も理解していない。そんな世界には住みたくありません。AIに書かせるのは、スロットマシンを回すようなものです」
対照的に、UIの高速化ならAIに任せられる。ブラウザの開発者ツールでフレームレートを見せれば、エージェントは改善を繰り返す。ただしそれは「テイストではなく、単にパフォーマンスの問題」だと同氏は線を引く。
「だから私は、AIの文章をどう良くするかを考えることに、あまり時間を使いません。それは最後に残る仕事だと思うからです」
人間が理解し続けることの重要性は、エージェント時代のUXの話にもつながる。AIは人間より速く進歩していくが、人間は制御したいと考える。制御するには、理解が要る。
「エージェントの中で起きている魔法を、哀れでちっぽけで頭の悪い人間である私に、どう説明するか。それがUXの価値です」
一方で、人間の理解力はゆっくりとしか進化しない。だから、理解を助ける形が要る。複雑な量の情報を理解するにはスプレッドシートが、思考を理解するには(体系立てられた)文章が優れている。エージェントとのやりとりを、すべてチャットに置き換えればよいわけではないということだ。
「何もかもがチャットで済むわけではありません」
ただし、どんどん賢くなっていくものを、人間はどう理解すればよいのか。この問いには、ショーニング氏も答えを持っていない。
「アリが私たちの行動を理解するすべを持たないのと同じです。だから、分かりません。でもそれは、私たち全員が一緒に進んでいる旅なのだと思います」
プロダクトマネージャーの仕事は、ゴミ出しからコードまで
では、プロダクトマネージャーに最後に残る仕事は何か。ショーニング氏は「とても難しい質問です。私たちは何万人も採用する必要がない、ある意味ぜいたくな立場にいて、そうでなければ答えは変わると思います」と前置きしたうえで、こう答えた。
「プロダクトマネージャーは、顧客にとってプロダクトを成功させるために、何でもやらなければなりません。それがゴミ出しでも、コードを書くことでも、顧客との電話でも、指標の分析でも構わないんです」
そして、成功するプロダクトマネージャーは昔からそうだった、と付け加えた。新しい職務が生まれたのではなく、もともとの仕事の輪郭がはっきりしたということだ。
そうした主体性の高い人材をどう見つけるのか。同氏が挙げたのは、ジュニア層の採用だ。
「ジュニアの人を採用することはとても重要です。ナイーブさ(純粋さ、素朴さ)は、ときに主体性にとって良いものだからです。何が不可能かをまだ知らないから、とにかくやってみる。そして成功するんです」
日本の会社の運営では大きな挑戦になるだろう、とも同氏は添えた。もう一つ見るのは、履歴書の型破りな部分だ。直線的な経歴は退屈だという。面接では、こんな質問をする。
「聴衆の前で言ったら面倒なことになりそうな、あなたの最も物議を醸す意見は何ですか」
答えたがらない人は、ルールに従うことを最優先するタイプだと同氏は見る。ルールが大切なのはもちろんだ。そのうえで知りたいのは、ルールを壊さずに曲げられる境界線に、どこまで近づけるかだという。
日本の作り手へ──小さく、管理された失敗を
ショーニング氏は、日本の顧客について「私たち以上にNotionを使いこなしている」と語る。アニメーションの細部に至るまでフィードバックが寄せられ、Notionをとことん押し広げてくれる。システムの不整合を最初に教えてくれるのも、日本の顧客だという。
そのうえで、日本のプロダクトマネージャーと開発者へのメッセージを求めると、同氏はこう話した。
「今回の来日中、何度も言ってきたことですが、日本の職場文化は失敗を抑え込みすぎていると思います。長期的な失敗の話ではありません。ごく小さな失敗の話です」
「権限のある立場の人が、チームに失敗を本気で奨励しなければなりません。とても管理された形で、失敗させる。イノベーションを起こす方法は、それしかないからです」
コードがタダになっても、ソフトウェアが良くならないのはなぜか。ショーニング氏の答えをつなげれば、ボトルネックが良いアイデアに移ったからであり、良いアイデアは考えるだけでは手に入らないからだ。悪いアイデアを安く試し、捨てる。何を作らないかを、毎週、顧客の体験に照らして決め続ける。そこで起きる小さな失敗を、権限を持つ人が許す。
振り返れば、Notionが茶室で考え抜いた作り直しも、資金が尽きて会社をリセットするという失敗から始まっていた。
