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ProductZine Day 2026

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「Newbee Conference 2026」レポート

トークンは福利厚生か人件費か──全員に配る会社、成果で渡す会社、5社のリーダーの線引き【Newbee Conf】

「Newbee Conference 2026」レポート(後編)

斉木 崇(編集部)[著]

AIで後発だった企業と、AIを核に生まれた企業

 最終のセッション5「経営戦略」に登壇したのは、SmartHR 代表取締役CEOの芹澤雅人氏と、IVRy Founder/CEOの奥西亮賀氏だ。IVRyは電話の自動応答サービスを手がけ、プロダクトの中核にAIがある。一方SmartHRは、AIに関する発信を本格化させたのが今年に入ってからだった。

 リードで紹介した「AIの情報がコモディティ化してきた」という発言は、このセッションの冒頭のものだ。芹澤氏の頭を占めているのは、AIよりも「何を作ったらいいのか」という経営者の根源的な問いで、AIはその中で使うエッセンスだという。

芹澤雅人氏
芹澤雅人氏

 SmartHRがAIの発信で後発だった理由を、芹澤氏は「半分は意図的、半分はそうではない」と説明した。顧客と話していても、AIの機能が今すぐ欲しいという声は多くなかった。都市部の小さな会社はAIへの感度が高いものの、体感では顧客の1割にも満たない。だから去年までは足元の大変な課題に集中し、去年末から顧客の要望が増えてきたのを受けて、今年から動き出した。

 奥西氏も、ある地方銀行の役員会でプレゼンした際、電話業務は数十年来の「永遠の課題」だと言われた経験を挙げた。技術の進化は速くても、市場の変化には時間がかかる。使われなければ意味がない、と同氏は言う。

 芹澤氏の答えは短かった。

 「一番怖いのは『早すぎたよね』ですよね。結局、使われない」

 2年ほど前、海外のSaaS事業者がこぞってチャット機能を埋め込んだが、使われずに縮小していった。芹澤氏は当時から「さすがにこれは使われないのでは」と見ていたという。奥西氏は、最先端の機能を買う顧客と、自社の何を守るかという価値にお金を払う顧客を分け、後者のほうが定着は強いと話した。

「赤字を掘れない」のは、これから始める人

 蜂須賀氏は、AIの話をすると、たいていつらい話や暗い話になっていくと切り出した。その一因として挙げたのが資金調達だ。スタートアップはVCから調達してEXITを目指すが、AIの登場でそのゴールが遠のき、つらさを助長しているのではないか、という問いである。

 2人の答えは、むしろ前向きだった。奥西氏は「難しくなっているとは思いません。今は過渡期なのです」と話す。AIの新しいリリースで何もかもが変わるように見えても、市場は5年、10年をかけて変わっていく。その時間軸で見る会社と、目先の資本市場で単年の成長率を追う会社とで、戦略が分かれているだけだという見立てだ。

 ソフトウェア企業が生み出せるものは確実に大きくなり、顧客企業も効率化を進められる。人の労働をソフトウェアに置き換えられる範囲は広がり続けており、市場としてはこの先10年、20年でまたとない好機だと同氏は見る。

奥西亮賀氏
奥西亮賀氏

 芹澤氏も同じ感覚だという。

 「『SaaSは死んだ』と言われたりしますが、SaaSはできることが大きく広がっています。AIが登場してから、ソフトウェアビジネスは圧倒的に戦いやすくなっていますし、可能性が広がっている感覚があります」

 ただし、芹澤氏はこれから参入する人には別の壁があると付け加えた。自社とはフェーズが違うと断ったうえで、こう話す。

 「今SaaSを始めようとする人は、少しつらそうだと思います。10年前と違って、赤字を掘るプレーができなくなっています。黒字至上主義のようになっているのです」

 ソフトウェアやSaaSは、最初に赤字を掘って先に投資し、あとから大きく黒字を回収する、いわゆるJカーブを描く事業だ。赤字を掘っている間に、その会社にしかないアセットや強みが育つ。短期の黒字から入ると、それが育たないままスモールビジネスで終わり、世の中を変えられない事業になってしまう、というのが同氏の懸念である。

 今から創業するならどう戦うか。この問いに、SaaS企業を率いる芹澤氏は「ソフトウェアは絶対にやりません」と即答し、奥西氏も同じ考えを示した。

 奥西氏の説明はこうだ。AIの技術が進めば、それを自社の業務に取り入れる側、例えばメーカーのような企業は、技術がどう転んでも恩恵を受けられる。ところがソフトウェアを提供するプラットフォームの側は、数ある候補の中から自分たちが選ばれるかどうかの勝負に常にさらされる。AIの波に確実に乗れるのは、作る側よりも使う側だという見立てだ。

 それでもソフトウェアで挑むなら、と芹澤氏が挙げたのは、サンフランシスコでミドルウェアやツールを作ることだった。「やはり、ツルハシが一番売れますから」。ゴールドラッシュで確実に稼いだのは、金を掘る人よりもツルハシを売る人だった、というたとえだ。アプリケーションよりも、それを作る人たちが使う道具の層で勝負してみたいという。

AI時代のPMFで変わるもの

 会場からは、AIスタートアップの経営者が、AI時代のPMF(プロダクトマーケットフィット)は変わるのかを尋ねた。

 奥西氏は、どのセグメントに対してどんな経済性を作れているかで見る点は変わらないとしたうえで、違いを挙げた。

 「ソフトウェアは、契約した時点でどう動くかが確定しています。でもAIは確率論的に動くので、どんなプロンプトを設定するか、どんなオンボーディングをするかで、ものの価値が変わりやすいのです」

 同じ製品でも、顧客の業務にはまるときとはまらないときが出る。だからオンボーディングまで含めて設計し直す必要があり、FDEのような役割が注目されているのも、こうしたビジネスオペレーションの違いが起きているからではないか、と同氏は見る。本稿の前半、セッション2で議論になったFDEが、ここで経営の側から位置づけ直された。芹澤氏も、AIもSaaSも手段にすぎず、プロダクトのPMFはそれほど変わらない、変わるのはデリバリーだと応じた。

 ではAIのコストを、社内ではどう配っているのか。この日、もっとも多くの登壇者が口をそろえたのがその問いだった。

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トークンは福利厚生か、人件費か

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...

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