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ProductZine Day 2026

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「Newbee Conference 2026」レポート

トークンは福利厚生か人件費か──全員に配る会社、成果で渡す会社、5社のリーダーの線引き【Newbee Conf】

「Newbee Conference 2026」レポート(後編)

斉木 崇(編集部)[著]

トークンは福利厚生か、人件費か

 この日、職種や立場を越えて繰り返し話題になったのが、社員に配るAIのトークンの扱いだ。セッション4の終盤、蜂須賀氏は「ハイレイヤーの人たちが、職種を超えて同じことを考えている」と口にした。

 最初に問いを投げたのは、前編でも紹介した組織戦略のセッション3だった。全員に配れば、人数が多いほど額は膨らむ。「もうみんなに配るのはやめました、という会社もあると思う」という蜂須賀氏の問いに、キャディ VP of Engineeringの藤倉成太氏が自社の経緯を語った。

 2024年ごろ、Copilotが出てきた段階では、判断のできる選抜メンバーに使い倒してもらうところから始めた。DevinやClaude Codeが登場すると、そういう次元ではないと全員に配り、最上位のプランで「とにかく全員でフルMAXで使う」ようにした。誰もが当たり前に使えるようになったところで、問題が見えた。

 「ちょっと待って、あまりアウトカムは増えていないのでは、という話になりました」

 今は事業やチームの状況を見ながら、この人にはここまで、このチームには全体でここまで、と配分を管理しようとしている。もっと使いたいなら、という蜂須賀氏の問いに、藤倉氏は「まずは、売れる状態を示してください」と答えた。

 同じセッションに登壇したエムスリー CPO/CAIOの山崎聡氏は、問題をさらに一般化した。

 「これはトークンに限らず、ハイパフォーマーとローパフォーマーのどちらを支援するのか、という永遠のテーマなのです」

 全体の底上げを狙うか、会社の柱に全力投球するか。同氏は「今年から賞与はトークンです」という思考実験まで持ち出したうえで、エムスリーの答えは「全員平等、使い放題」だと明かした。ただし上限は管理する。固定料金のチームプランの枠を上手に使うよう求め、上限に達するとアラートが出て、それでも足りない人には特別枠を用意する。

 「制約があると、みんな工夫するものです」

 どこにどのモデルを使えば足りるかを、社員自身が考え始めるという。山崎氏は、どちらのやり方が正しいかは会社のフェーズで変わるとも付け加えた。普及を進める時期なのか、一定のパフォーマンスを求める時期なのかで、考え方は変わる。

 セッション4では、クラシル 上級執行役員 CPOの坪田朋氏が、この半年で世の中の関心が「どれだけトークンを消費できるか」から「トークンマネジメント」に移ったと話した。

 「トークンマネジメントは、もうPLで言えば人件費とイコールになってきています」

 対談相手の宇野雄氏(Fluid Design)も、これまではFigmaのライセンスやAdobe CCの年間契約でしていたコストの話が、全部同じ数字に集約されたと応じた。CxOレイヤーはみな同じことで悩んでいるので、かえって相談しやすくなったという。

 セッション5でも、社内のホットトピックを問われた芹澤氏が挙げたのは予算だった。

 「AI予算ですよね。結局、売上対比で何パーセントぐらいを組むのがいいのか、実際に置いたとしてROIはどうなるのか、という話になってしまう。ワクワクはしないですね」

 黒字を求められる中で、どうAIに投資するか。質疑でそう問われた芹澤氏は、説明責任の重さを挙げた。なぜ赤字を掘るのか、掘った先にどんなアセットが残るのかを熱く説明できれば、理解してくれる人はいるはずだという。SmartHRの場合、Jカーブを描いた10年で手に入れたのは、従業員1700人弱の組織と、新製品を売り出す力の強い営業・マーケティングだった。人に投じた赤字なら、残ったものを指し示せる。ところが同じ赤字を「トークンに使います」と説明すると、使ったあとに何が残るのかを問われ、言葉に詰まりそうだと芹澤氏は打ち明けた。

 奥西氏は、人件費とAIコストを合わせて生産性を見るという基本は同じだとしたうえで、論点を人の側に広げた。

 「AIとの対話を並列で3セッションほど走らせると、その認知コストが非常に高いのです」

 AIに仕事を追いかけられているような感覚で、みんなが疲れていく。会議の合間にAIを回すと、コンテキストの切り替えに時間がかかって効率が悪い。そこで同氏は、トークンの内訳やGoogleカレンダーを分析して、どんな働き方が非効率なのかを見極めようとしているという。

 5社の扱いを並べると、次のようになる。

5社のトークン・AI予算の扱い
会社(登壇者) トークン・AI予算の扱い 何と結びつけて考えるか
キャディ(藤倉氏) 全員にフルで配ったのち、チーム・個人単位の上限へ 成果。もっと使いたいなら「売れる状態」を示す
エムスリー(山崎氏) 全員平等・使い放題。固定枠+上限到達時の特別枠 工夫。制約の中でモデルの使い分けを考えてもらう
クラシル(坪田氏) 消費量を競う段階からトークンマネジメントへ 人件費。PL上で人件費と同じ土俵で見る
SmartHR(芹澤氏) 売上対比でAI予算を組む 説明責任。投じた先に何が残るかを語れるか
IVRy(奥西氏) 人件費+AIコストで生産性を見る 人の認知コスト。働き方そのものを見直す

 配って終わりにしている会社は、1社もない。そして5社とも、トークンを人の評価や配置と切り離して考えてはいない。セッション2で広木氏は、会社にとってのAIの価値を「BPOの人員がトークンに変わる」ことに見た。外に売る側から見ればトークンは人の代わりになり、社内で配る側から見れば人件費の一部になる。だから配り方の議論は、山崎氏の言う「誰を支援するのか」という、人をめぐる昔からの問いに戻ってくる。配り方が会社ごとに違うのは、事業のフェーズも、誰の力に賭けるのかという人への考え方も、もともと会社ごとに違うからだ。

同じ言葉を、違う場所から

 クロージングで、蜂須賀氏はこの日を振り返った。

 「同じワードが何度も出てくるのです。それぞれのポジションはまったく違うのに、さまざまな観点から同じものを捉えている」

 トークンもFDEも、SaaSの行方も、この日は複数の登壇者が違う立場から取り上げた。立場が違えば答えも違う。その違いこそが、それぞれの会社が何を大事にしているかを映していた。

 最後のエールで、芹澤氏はSmartHRのサマーインターンの話をした。5日間で学生が社内異動アプリを作る課題で、人事担当者にヒアリングして要件を定義し、Claude Codeで実装する。講評会で見ると、出来上がったアプリには驚くほど差が出たという。

 「AIがどんなに発達して、プロンプトで何でもできるように思えても、作られるものには、課題の洞察力や、人が欲しいものを見抜く力、ホスピタリティで大きな差が出るのです」

 AIをめぐる情報はコモディティ化しても、作られるものはコモディティ化していない。芹澤氏は、需要は増え続けるとした奥西氏の言葉を受けて、世の中に対していいものを作ることの価値は、これから先も変わらないと締めくくった。

 前編では、人と組織の視点から、作る作業がAIで速くなったあとに人に残る仕事を取り上げている。

 各セッションのアーカイブ動画は、10月29日から5週連続でNewbeeの公式YouTubeチャンネルで公開される予定だ。また、「Newbee Conference」の第2回は、来年2027年9月9日の開催が予定されているという。こちらもぜひ予定を空けて、追加情報を待っていただきたい。

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...

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