想定を超えて広がったユースケース──アラートの一次調査から、運営チームの仕様確認まで
当初想定していた使い方は、アラートの一次調査だった。アラートが飛んでくるとエージェントが自動で調べ、原因・影響範囲・推奨対応をSlackに投稿する。紹介されたのは、深夜にCloudFrontの5xxエラー率アラートが上がったケースだ。エージェントは「APIの応答遅延でPHP-FPMのワーカープロセスが枯渇していますよ。ただ7分で自動復旧しています」と返し、タイムラインや影響範囲までまとめた。
面白いのはその先だ。CPU使用率のアラートが4週間で15回繰り返されたとき、エージェントは毎回同じ根本原因を指摘し続けた。その積み重ねが「恒久対策が必要だ」という判断材料になる。逆にステージング環境の13件のアラートは、ほぼすべてが誤検知と判定され、アラート疲れの軽減につながった。朝会向けレポートも、いまは毎朝自動で投稿される。
だが周氏が「個人的に一番面白かった変化」と語ったのは、開発者が自分で一次調査を完結させるようになったことだ。SlackにトレースIDを貼って「このリクエストがなぜ500エラーになったのか」と聞けば答えが返る。「PRをマージしたら近い時間に障害が起きたが、本当にこのPRが原因か」と聞けば、リリース前後のメトリクスから因果関係を検証する。従来なら「SREさん、ちょっとサポートお願いできますか」と連絡が飛び、30分から1時間待っていたものだ。
用途はさらに広がった。「このAPI、他のリポジトリで使われていますか。削除しても影響ないですか」と聞けば、組織全体のコード検索と実際のアクセス履歴を踏まえた可否が返る。1人で作業していてもレビューパートナーになるわけだ。設計段階で「APIコールを6件追加したいが、キャパシティは問題ないか」と聞けばシミュレーションが返る。そして想定外だったのが、エンジニア以外の利用である。運営チームが「このクーポンにはどういった設定条件が可能か」と聞くと、エージェントがコードと設定ファイルを読んで答える。
人と人の間にエージェントが入る──3つの変化と、運用して見えた勘所
周氏は、チームに3つの変化が起きたと総括する。
1つ目は、設計・実装・検証のサイクルに、エージェントとの会話が自然に組み込まれたこと。「Agentが『困ったときのヘルプデスク』ではなく、一緒に開発を進めるパートナーという風に考えています」(周氏)
2つ目は、人と人の間にエージェントが入るようになったこと。開発者からSREへの問い合わせに根拠が伴うようになり、会話の質が上がっているという。ただし人と人のコミュニケーションが不要になったとは考えていないと周氏は釘を刺す。「エージェントで解決できるものはエージェントに任せて、人はより人にしかできないことに集中するという形です」
3つ目は、LLMの広い視点が新しい気づきを生んだこと。人が調べるにはコストがかかるため、軽微な変動は後回しになりがちだ。エージェントは頼まれていない範囲まで見て、「DBのCPUスパイクが定期的に出ていますよ」といった指摘を返してくる。見逃されていた予兆に光が当たるようになった。
効果は数字でも確かめられている。利用部署へのヒアリングでは、1回の利用で調査業務なら30分〜1時間、レポーティングなら1〜2時間程度が短縮できた。一方で、ビジネス判断や組織間の調整、「そもそもこの領域はオブザーバビリティが足りていない」という見極めは人が担うという線引きも明確になった。
コストは1回あたりの調査で1ドル未満。その調整過程の知見が示唆に富む。トークン数を減らしすぎると逆効果になるのだ。ツールのレスポンスを削りすぎると、エージェントが「情報が足りない」と判断して追加でツールを実行し、かえってコストが上がる。もう一つの勘所が、取得元ごとにばらつくフォーマットやタイムスタンプの統一だ。特にJSTとUTCの混在は、無関係な時刻の変動を拾う勘違いを招く。
「AI Agentと伴走する開発プロセスは、AIに判断を任せることではなく、人がより良い判断をするための材料を、AIと一緒に揃えていくプロセス」。周氏はそう述べてセッションを締めくくった。
最後に、New Relic カスタマーサクセス部 テクニカルアカウントマネージャの小林良太郎氏が自社の取り組みを補足した。「お話しいただいた周さんがおっしゃっていたように、New Relicも人間に伴走するということを今コンセプトとして考えています」と小林氏。障害の予兆検知・対応・分析をAIが拡張し、自律的に調査していく方向を打ち出す。
MCPはプレビュー中ながら公開されており、ClaudeやCursorから接続して「今どんな障害が起きているか」と尋ねられる。SREエージェントをアラートの送信先に設定すれば、一次切り分けを経てSlackへ投稿する流れも組める。GitHubのMCPと接続すれば、設計ドキュメントのような監視データに収まらないコンテキストも踏まえた助言が可能になる。「パフォーマンスリスクインボックス」はN+1やスロークエリを検出して画面上に整理する。
「皆さんが見やすいということは、AIも見やすいんです」と小林氏。EC2の再起動やPagerDuty連携を自動化するワークフローオートメーションも紹介された。
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