AIハイパーコンピューターが示すインフラの全貌
「ハードウェアからモデル、エージェントを支えるプラットフォームまで、すべてのレイヤーを自分たちで手がけてきた。この一貫したアプローチこそが私たちならではの強みです」。渕野氏はDay 2の基調講演の冒頭でこう述べ、その集大成である「AIハイパーコンピューター」の全体像を講演の最初に取り上げた。「エージェント時代のコンピューティングは、もはや1つのチップだけではなく、データセンター全体で提供される」という言葉が、講演全体のテーマとなった。
チップ面での最大の発表は、第8世代TPUの詳細だ。Googleとして初めて、用途別に設計を分けた2つのアクセラレーターを投入。学習向けの「TPU 8t」と推論向けの「TPU 8i」がそれにあたり、トレーニングと推論という異なる要求に最適化した専用設計が特徴だ。GPU側では「NVIDIA Vera Rubin NVL72」をいち早く提供するクラウドのひとつとなり、高いインタラクティブ性と長いコンテキストを要するワークロードで性能・効率が10倍に達するという。カスタムArm CPU「Google Axion」のラインアップも拡充された。汎用向け「Axion N4A」インスタンスはx86比で最大2倍の価格性能比と80%優れたワットあたり性能を提供し、ネットワーク処理特化のC4系と大容量メモリのM4系が加わった。
ストレージ面では、毎秒10テラバイトのスループットを誇る並列ファイルシステム「Google Cloud Managed Lustre」が高価なアクセラレーターの稼働率を底上げする。GKEも25万6000ノードを束ねるハイパークラスターとサーバー起動を最大81%圧縮する「GKE Pod Snapshots」を追加した。Woven by Toyota、Turing、SyntheticGestaltといった企業がこの基盤上でVLMや分子基盤モデルの開発を進めている事例も紹介され、「全レイヤーを一気通貫で提供する」というGoogleの戦略が具体的な数字と事例で裏付けられた。
「業務で使えるエージェント」を阻む壁とは
Google Cloud GCP・SRE 担当 プレジデントのブラッド・カルダー氏は、AIエージェントプラットフォーム「Gemini Enterprise Agent Platform」の一般提供開始を発表した。それに続いて登壇したGoogle Cloud アプリケーション モダナイゼーション スペシャリストの塚越啓介氏は、エージェントの「業務化」に潜む本質的な課題について、「AIの進化により、エージェントを作ること自体はかつてないほど簡単になりました。ただ、デモで1つのエージェントを動かすことと、実際の業務で成果を出すためのエージェントを動かすことでは、かなり大きな乖離があります」と指摘する。
Gemini Enterpriseのエージェントプラットフォームはこの乖離を埋めるために複数のコンポーネントで構成される。開発を担う「Agent Development Kit(ADK)」はオープンソースフレームワークで、Google Cloud全体のサービスがデフォルトでMCP(Model Context Protocol)に対応したことにより、エージェントはエコシステム全体と安全に通信できる。「Agent Registry」がスキルを管理し、複数エージェントの連携を可能にするのが「A2A(Agent-to-Agent)プロトコル」だ。「Agent Runtime」が実行とスケーリングを担い、セッション履歴の肥大化に対しては古い履歴を動的に要約するコンテキストウィンドウ自動圧縮でレイテンシを抑える。
ガバナンス面では「Agent Identity」が各エージェントに暗号学的に証明された固有のIDを付与し最小権限を徹底する。「Agent Gateway」が全入出力経路を集中管理し、統合された「Model Armor」がファイアウォールのようにプロンプトインジェクションや機密情報漏えいを遮断する。塚越氏のデモでは購買エージェントがA2A通信で在庫管理エージェントに問い合わせ、MCPで予算を確認し、プロンプトインジェクション攻撃をリアルタイムに遮断する一連の流れが紹介された。「エージェントプラットフォームを使うことで皆さんが意識していただくことは、本当に必要な業務ロジックのみになります」と塚越氏は語った。
