プロダクトマネージャーは、ドメインリーダーになる
では、エンジニアがDiscoveryへ染み出してきた先で、プロダクトマネージャーには何が残るのか。岡田氏の答えは「ドメインリーダーになる」だった。
「AIでつくることが容易になるほど、その領域での価値を判断できる文脈理解が希少になります」
岡田氏が担当する健康医療の領域で言えば、制度や法令、周辺業務を把握していなければ、画面やサービスの良しあしを判断できない。AIは候補も調査結果も出す。それを評価する軸があるかどうかが分かれ目になる。
押さえるべきドメイン文脈は4つ。ユーザー、ビジネス、オペレーション、AI・テクノロジーである。このうち「結構抜けがち」と名指しされたのがオペレーションだった。カスタマーサポートやバックヤードの業務にどう影響するかまで、設計時に織り込めているか。
そのうえで回すのが、岡田氏が「ドメインアウトカムループ」と呼ぶサイクルだ。何を価値とし何をやらないかを決めるJUDGEMENT、AIで素早く試すBUILD、リリースで終わらせず成果まで責任を持つOUTCOME、結果から学んでドメイン理解を更新するLEARN。一周するたびに、判断の土台となる文脈が厚くなる。
強調されたのはOUTCOMEだった。「出したから、あとはカスタマーサービス、カスタマーサクセスよろしく、みたいな話ではなくて」。利活用の推進も運用の改善も事業成果への貢献も、守備範囲に入る。汎用的なプロダクトマネージャーで終わらず、その領域で価値判断ができるようになる。それが、作る力がコモディティ化した先に残る仕事だという主張だ。
増やすべきは機能ではなく、国民に返せた時間
岡田氏が映したロジックモデル(投入・活動・結果・成果・社会的変化)のうち、AIが加速したのは最初の3つまでだった。
「結果を作るところと出すところは、AIでかなり加速されました。ただ、その後の成果やインパクトまで考えたうえで、我々はAIを動かせているでしょうか」。AIで無駄なものが作られるようになった、という声をSNSで見かけると岡田氏は言う。問うべきは一つだ。
「それは誰のための、何の課題を解決しているソースコードなのか」
では、行政プロダクトにおける成果とは何か。岡田氏の定義は、民間の指標とは逆を向いている。
「行政サービスにおける成果とは、国民に返せた時間だと考えています。滞在時間を伸ばすことは、行政サービスの目的ではないので」
この軸は、入庁時に読んだドラッカーの『非営利組織の経営』から着想を得て、岡田氏が自分なりに整理したものだという。成果は組織の外部にのみ存在し、内部にあるのはコストと努力だけ。であれば、行政の使命は国民の可処分時間を創出することになる。裏を返せば、行政も民間のプロダクトと体験の基準を競うマーケットに立っている。
この定義を指標に落としたのが、ノーススターメトリクスを行政向けに拡張した「フリクションレス・モデル」だ。ノーススターに置いたのは「一発で手戻りなく手続きが完了した総数」。摩擦を減らして時間を返すほどデジタル移行が進み、信頼と満足がまたトランザクションを増やす。ガードレール指標は完了時間、エラー率、満足度、アクセシビリティ。もっとも「この指標が完全に機能しているかというと、まだまだこれからです」と岡田氏は付け加えた。
不都合な事実も率直に共有された。自治体の現場はほとんどが紙で、デジタル化しても当面は楽にならない。紙とデジタルが並行し、二重に処理する期間が生じるからだ。「デジタルでできたとしても、紙に出力しないと後ろのフローが動かないんです」。だからこそ現場に入り込み、全部デジタルで通す道を考える必要がある、と岡田氏は述べた。
講演は、冒頭の問いと対になる一文で閉じられた。作る力が増えた今、増やしたいのは機能ではない。国民に返せた時間である。
