個別対話を重ねながら、組織全体の学習速度も上げる
発信で認知をつくった後は、個別対話につなげる段階に入る。発信だけでは相手の状況まではわからないため、自分に興味を持ってくれたと思える相手に、思い切って1on1を打診する。小島氏が実際に使っているという打診文は、「先日は発表を聴いてくださってありがとうございます。○○さんのチームについて興味があります。どんな感じで開発しているのかお聞きしたいです。よかったら一度30分枠で1on1をお願いできないでしょうか」というものだ。これで断られたことはないという。
1対1の関係ができたら、次は相手のチームの振り返りへの参加を相談する。小島氏によると、朝会やモブプログラミングなどさまざまな会議に参加してきた中で、特に学びが大きかったのが振り返りだったという。そして参加した会議では、そのチームの良いところを見つけて言語化して伝えることを意識しており、1時間の会議であれば10件ほど見つけるようにしている。そのうえで、助言を求められたときや相手が困っていることが見えた際に、「自分のチームでは、これを試してみて効果がありました。チームによって合う合わないがあるので、試しに2週間くらいやってみて、いまいちだったらやめればいいと思います」と伝える。相手が選べる形で知見を渡すことで、提案を重くしないという工夫だ。
こうした関係性の中で得た知見を、さまざまな職種のメンバーに合わせて届ける取り組みも行っている。その一例が、AIエージェントによる業務自動化のハンズオン勉強会だ。事前に参加メンバーの業務内容を教えてもらったうえで、実際の業務を題材に、AIエージェント(Cursor)でMCPとBrowser Automationを使って自動化を体験してもらう。「これでいろいろと自動化できます」といった一般論ではなく、相手の実業務に即した題材を選ぶことがポイントだという。実際、翌日には自分の業務を自動化したメンバーも現れた。
小島氏はさらに、組織の学習速度を上げることも立派な事業貢献だと考えている。今回のDevelopers Summit 2026 Summerのテーマは「事業貢献」だが、あるチームが試したことを別のチームが知り、自分たちの状況に合わせて少し変えて試し、その結果をまた共有する。この循環が速くなれば、組織全体のパフォーマンスも上がっていく。売上や機能開発に直接つながる貢献だけでなく、このように学習速度を上げることもエンジニアにできる事業貢献のひとつだというのが小島氏の考えだ。
そこで小島氏が企画したのが、社内横断イベント「Best Team Award」だ。5チーム横断で、各チームが最近試したことや学んだことを30分の枠内で5分ずつ発表し、参加者がSlackに感想を書き込み、最後に一番良かったチームをその場の投票で決めて、「1位おめでとう」とみんなで称え合う。ポイントは、進捗報告ではなく知見と称賛を流通させることにある。聞くだけの会議にならないよう、感想を書く・投票する・称賛するという参加の動きを全員に課すことで、30分間忙しくも満足感の高い会議体になっているという。
あなたの物語は誰かにとって価値がある!
小島氏はこうしていろいろと前に進められたのも、社内の人々が温かく受け入れてくれたおかげだと感謝を述べた。そのうえでセッションの締めくくりとして、AI時代に価値を持つのは、現場で何を試し、どう失敗し、どう人を巻き込み、どう前に進んだのかという、その人にしか語れない物語だと伝えた。誰かの具体的な物語に触れると、人は知識を得るだけでなく共感できる。「自分も似たようなところでつまずいているな」「この人も最初はうまくいかなかったんだな」と感じられるからだ。
小島氏自身も、最初は良い取り組みを紹介しても誰にも広がらなかった。自分の過去にも、黒歴史と呼びたくなる失敗がいくつもあった。それでも何とかしたくて何年も試行錯誤してきた物語こそが、今回の発表そのものだという。「小さく試したことでもいい。うまくいかなかったことでもいい。誰かに助けてもらいながら、少しだけ状況が良くなったことでもいい」。小島氏はそう呼びかけ、あなたの物語は、同じ悩みを持つ誰かにとって価値ある知見になる、と語って発表を締めくくった。
