増やしてよい仕事を、どの結果で見分けるか
一方で、単に量が足りていない職場もあります。依頼の内容や求められる品質が変わらないとします。作る量を増やすほど利用者へ届く資料も増え、確認待ちや差し戻しも悪化していないなら、量を増やす効果はまだ残っています。その状態が続くなら、「高速化が確認待ちを悪化させている」という見立ては外れています。逆に、提出だけが増えて届く量が増えないなら、作成以外の工程を見ます。
先ほどは、確認も速くなったと仮定しました。実際にも、自動で確かめられる箇所を増やして、確認の負担そのものを減らす選択肢はあります。必要な品質を保ったまま利用者へ早く届けられるなら、その高速化には価値があります。人がすべてを目で確認することを守るべき前提にする必要はありません。
仕事量が増えたこと自体も失敗ではありません。以前は引き受けられなかった仕事を品質と働く時間を保ったまま引き受けられたなら、効率化の成果です。ただ、「早く帰れる」という期待と、「もっと受けられる」という期待は別のものです。浮いた時間をどちらに使うかを決めていなければ作成担当は前者を、依頼者は後者を期待したまま同じ短縮を眺めることになります。
僕なら、作成が速くなった後に利用者へ届いた資料の数と、確認を待っている資料の数を並べて見ます。片方だけを見ると処理できる仕事が増えたのか、残る仕事が増えたのかを取り違えるからです。前後を比べるときは仕事の難しさ、依頼の総量、担当者の交代も記録しておきます。数字の変化だけで、AIの効果や仕組みの正しさを決めつけないためです。
空いた時間の使い道は誰が決めるのか
では、処理できる件数が増えた分を何に使うのでしょうか。利用者の待ち時間を減らす、後回しにしていた改善に取り組む、メンバーの休息や学習に戻す。どれも選べますが、同じ時間を全部に使うことはできません。使い道はAIの性能から自動的には決まりません。人員配置や評価を決める側の判断が次の働き方を作ります。
たとえば、エンジニアがAIを使って改善案を以前より多く具体化できるようになったとします。提案を増やすだけなら他チームとの依存関係の確認、リリース時期の調整、利用部門への説明も一緒に増えていきます。作る時間だけを見れば効率化です。しかし、約束したことを果たすところまで含めると、仕事の配り方を変える必要があります。新しい提案を進める前に、開発側と利用部門が一緒に、すでに引き受けた約束と利用部門が実際に受け入れられる変更の量を見ます。
仕事の価値を、手を動かした時間の長さで測り直す必要はありません。短い時間で同じ困り事を解消できたなら、その短さにも価値があります。ただ、浮いた時間を毎回次の依頼で埋めるなら、「楽になるための改善」は仕事を配る段階で消えます。利用者に届いた量と担当者の負担を見て、次に受ける量や学習の時間を決め直します。忙しさを変えるには速くする技術に加えて、速くなった後の使い道を決める場が必要です。
速く終えた分をすべて次の仕事で埋めれば、休める時間は増えません。
その仕事をなくしてよいと言えるのか
ここまで、資料が利用者へ届くところまでを追ってきました。もう一つ、確かめたいことがあります。届いた資料は何に使われたのでしょうか。定例の報告なら読んだ人が何を判断し、どんな備えを変えたかまで聞いてみたいです。提出することだけが目的になっているなら確認待ちを解消した後も、その仕事を続ける理由への疑問は残ります。
AIで作成の手間が減ると、この疑問は後回しにしやすくなるかもしれません。誰に使われているかを調べて関係者と廃止を相談するより、いつもどおり作る方が早く済むからです。提出した実績が「今も必要な報告」の証拠として扱われ次の依頼が来るなら、作ったことがまた作る理由になります。速く作る工夫は、やめる相談を先送りする余地も増やします。
ただ、僕に用途が見えないことと、用途がないことは違います。普段は開かれなくても、トラブルの調査や引き継ぎに必要な記録はあります。作っている本人が使い道を知らされず変える裁量もないために、意味を感じられないだけの場合もあるでしょう。仕事を一つ減らす相談と、その仕事をしてきた人の価値を疑う話は分けなければなりません。
自分の仕事をなくそうと言えば、自分の評価まで下がるかもしれません。その状況で担当者だけに「本当に必要ですか」と問い続けるのは酷です。
僕が依頼する側なら、まず資料の用途を説明します。そのうえで、重複する項目を減らす提案をどう評価するか、空いた時間をどこに配るかを話したいです。資料の受け手と相談して減らす範囲を小さく決めた後は問い合わせや手戻り、別の人へ移った負担を見て、続けるか元に戻すかを判断します。なくしてよいと言える条件を整えることも、仕事を頼む側の仕事です。
まず一件、提出した後を追ってみる
仕事の割り当てを変える権限がなくても自分が提出した一件について、見える範囲で記録することはできます。作成にかかった時間に加え、提出、確認の開始と完了、利用者に届いた時点を分けて書きます。確認がいつ始まったかわからなければ、提出から確認完了までをいったん合計の時間として残します。待っていた時間と、確認に使われた時間を推測で分けないためです。
一件の記録だけでは、職場全体の原因は決まりません。それでも作成に使った時間と、その後にかかった時間は分けられます。同じ種類の仕事で繰り返し待つなら、その記録は仕事を割り当てる人と確認担当に、どこで待っているかを示す材料になります。「もっと早く確認してください」と頼むより、新たに受ける量と確認の進め方のどちらを変える必要があるかを話しやすくなります。
割り当てを変えられる立場なら受ける量、優先順位、何をもって確認を終えたとするかを関係者とそろえます。受ける量を抑える場合も、その分を別の人や次の週へ押しつけていないかまで見ます。一人だけが提出を控えても、ほかの人からの提出が続けば確認待ちは残ります。確認担当を共有している以上、この問題を個人の自制だけに任せることはできません。
見直す日は、受け方を変える前に決めておきます。目安は普段の仕事で、提出から確認完了までにかかる期間です。その日に待ちが短くなったか、差し戻しが増えていないか、利用者が必要なときに受け取れたかを確かめます。まだ終わっていない仕事も数に入れます。待ちが作成担当の手元や別の部署へ移っただけなら、見る範囲を広げ直します。
受け方を変えても待ちが減らないときは、二つを調べます。同じ期間に新たに受けた件数、つまり流入が本当に減ったか。そして、確認できる量や確認の手順が変わっていないかです。
見直す日に、確認を終えた資料の平均所要時間が短くなっていたとします。受ける量を調整した効果だと考えたくなる数字です。この平均は簡単な確認を先に済ませ、難しい確認を翌週へ送り続けても短くなります。提出されたまま終わっていない一件は、完了した仕事の平均には入らないからです。
早く終わった仕事だけを見ると、終わらない仕事ほど見えなくなります。
そこで、待っている資料についても、いつ提出され、何がまだ確認されていないのかを見ます。同じ資料が見直しのたびに残っているなら、件数の改善とは別にその理由を調べる必要があります。平均時間が短くなったという記録は残しつつ、それだけで待ち全体が改善したとは判定しません。
優先順位を変えれば、急ぎの資料を早く届ける代わりに、別の資料を長く待たせることになります。緊急度が異なる仕事をすべて先着順にする必要はありません。ただ、後回しにした仕事について誰が期限を調整し、いつ再び手をつけるかが決まっていなければ、急ぎではない仕事はいつまでも始まりません。僕なら全体の平均が下がった日にも、最も長く待っている一件を開いてみたいです。
