何を「完了」とするかが、次の観察を決める
数年前、システム思考の本を読んで感動した僕は、自分の生活をループ図で描いてみました。夜更かし → 睡眠不足 → 非効率 → 残業 → 夜更かし。きれいに循環が描けて満足しました。

夜更かしからたどっても、残業からたどっても、矢印は一周します。本で読んだ構造を、自分の生活にも当てはめられました。そしてその夜、また深夜2時までスマホを見ていました。
図を描くだけで行動が変わるわけではありません。だから、また夜更かしをしたことだけを、図が間違っていた証拠にすることもできません。分けたいのは、二つのことです。生活の中で夜更かしが続く構造そのものと、その生活を調べる作業をどこで終えるかという条件です。図を描けたという手応えだけでは、生活を変える条件まで確かめられたとは言えません。
「なぜこうなるのかわからない」という不確かさを減らすことが目標なら、図を描いて納得した時点で目標には近づいています。一方、寝る時刻を早めることが目標なら、確かめる結果は実際に寝た時刻です。同じ図を使っていても、どちらを達成と数えるかで、次にやる仕事は変わります。説明に納得できたところで観察を終えると決めていれば、生活が変わる前に、調べる理由の方がなくなります。
冒頭の職場にも、同じ組み合わせがありました。早く返る結果と遅れて返る結果があり、早い方が評価に使われていました。資料の完成はすぐに見えますが、利用者の判断に役立ったかは後からしか分かりません。
図も同じです。描けた手応えはその場で返りますが、描いた関係が日々の行動を説明できるかは、その後を見なければわかりません。早く返る結果だけで完了にすると、遅れて返る結果を次の判断につなぐ仕事が残ります。
何を「完了」とするかで、その後の結果を誰が確かめるかまで変わります。
納得した時点で観察を終えると、仮説に合わない出来事が起きても、説明を直す材料にはなりません。また夜更かしをしたときに、その日に残業があったかを確かめず、前に描いた図で説明できたことにすれば、最初の仮説は確かめられないまま使われ続けます。疑いたいのは、この結果の扱い方です。理解が浅いという性格の話ではなく、何を達成と見なし、どの記録で説明を直すかという問題として扱えます。
変えるなら、「もっと自分を疑う」と決意するだけでは足りません。自分で追える記録を残します。退勤した時刻、スマホを見始めた時刻、寝た時刻です。それを勤務のある日とない日で比べて、図を読み直します。

残業のない日にも寝る時刻が同じなら残業だけでは説明が足りないので、帰宅後の行動まで観察を広げます。逆に、退勤と就寝が一緒に遅くなっていても、家事など間にある条件を調べ、矢印一本で原因が決まったとは扱いません。この記録を読むのは図を描いた本人で、どの関係を残し、どこを調べ直すかを決めるのに使います。
職場の振り返りなら、記録を読む人が一人とは限りません。改善案をまとめた人と、実施後の待ち時間を見られる人が別なら、記録を渡す相手と見直す日を決めておく必要があります。報告書を提出する仕事はそこで終え、結果を確かめる仕事は別の予定として置けます。確認担当が待ちの増減を仕事を割り当てる人に伝え、その人が次に受ける量を変えられるなら、作成者がずっと追い続けなくても、結果は判断に戻ります。
個人の生活でも、記録を際限なく続ける必要はありません。図を読み直す日を先に決め、その日に残業と就寝の関係を確かめたら、次に調べる条件を一つ選びます。説明を作る仕事と、結果を見て説明を直す仕事を、分けたうえでつなぎます。図を描いた僕に足りなかったのも、もう一本の矢印ではなく、描いた後を確かめる仕事でした。
今回のまとめ
提出件数が次の割り当てを増やす強化ループと、空き時間を埋めようとする調整ループは、AIが普及する前からある仕事の回り方を説明します。AIで作成が速くなってもこの配り方が続くなら、短縮した時間は追加の仕事に使われます。さらに、提出される件数が確認を終える件数を上回れば、確認待ちというストックが増えます。資料が使われた後の結果には遅延があるので、作る側の成功だけでは全体を判断できません。
強化ループでは、どの変化が一周した後にさらに進むのかを見ます。調整ループでは何を測り、どの目標との差を縮めようとしているのかを見ます。そして、その結果がいつ仕事を割り当てる人の判断に届くかを確かめます。仕事が増えたから強化、減ったから調整と分類するだけでは次に変える条件は選べません。
まず、自分が提出した一件のその後を追ってみます。作成は早くなったのか、確認も早く終わったのか、利用者へ早く届き、何に使われたのか。この異なる結果を一つの「完了」にまとめずにおけば、どこを速くするか、どこで受ける量を見直すか、どの仕事を続けるかを選べます。
冒頭の「もうできたんですね」は、作成担当の成果を認める言葉でした。AIで作る手段が変わっても、その後に続く「では、こちらもお願いします」で空いた時間を埋めれば、忙しさは元に戻ります。
僕も次の依頼を渡す側に立つなら、二つを確かめたいです。提出された一件は、まだ誰かの確認を待っていないか。空いた時間を何に使うと決めていたか。そして、次の一件を頼む理由を、相手の手が空いたことだけで説明しないようにしたいです。
