能力は爆伸び、それでも「全部AI」に頼れない理由
株式会社電通総研でローコード開発基盤「iPLAss」のプロダクトマネージャーを務める矢野圭祐氏は、セッション冒頭、この1年のAIの変化を「能力の急伸」と「コストの急騰」という2つの側面から振り返った。半年間の育児休業を経て復職した際の実感を、矢野氏は「育休前と育休後で、AIに関する状況が目まぐるしく変わっていて、浦島太郎のような気持ちになった」と語った。
続けて矢野氏は、AIエージェントの台頭とともにMCPやSkillsといった標準化が進行し、フロンティアモデルが数カ月ごとに更新されている現状を紹介した。AIができることが増えるにつれ、SNS上では「全部AIに任せたらいいのではないか」という声も広がってきたという。
一方でこの1年は、従量課金への移行が急速に進んだ時期でもある。矢野氏は、2026年6月から主要ツールが従量課金へ移行し、大手企業でも予算が数カ月で枯渇する事例が出ていると説明した。「使い放題のハネムーン期は終わった」というのが矢野氏の実感だという。
「全部AIに任せたらいい」という声に対しては、本番運用でつまずいたという報告が相次いでいることを矢野氏は指摘した。プロトタイプとして見た目が優れたシステムができても、実際にはパラメータが埋め込まれたままだったり、一部がモックのまま残っていたりするケースがあるという。プロトタイプとして見せる段階では成立しても、中長期にわたって運用するシステムとなると、AIだけに任せた実装は行き詰まりやすいというのが矢野氏の見立てである。
もう1つの「使いどころを考えるべきだ」という声に対しては、AIに全部を任せるのではなく、既存で活用できるものがあるならば積極的に使うべきだというのが矢野氏の立場であり、この2つの声のどちらに対しても、開発基盤の活用が有効だと結論づけた。
「全部AI」にも「使いどころ」にも効く、開発基盤の3つの意義
こうした状況を踏まえて矢野氏が示したのが、AI時代こそ開発基盤を活用する意義が高まっているという主張である。「全部AIに任せたらいい」という声にも、「使いどころを考えるべきだ」という声にも、開発基盤の活用が応えになるという。
矢野氏は、AI時代に開発基盤を活用する意義を3つに整理した。1つ目が開発効率と品質の両立、2つ目が中長期でのシステムの一貫性と保守性の担保、3つ目が費用対効果である。それぞれの意義がどのような理屈で成り立つのか、次に詳しく見ていく。
共通機能は基盤に、独自要件はAIに
矢野氏がまず挙げたのが、開発効率と品質の両立という意義である。認証・認可や権限管理、ワークフローといった、業種を問わず必要とされる共通機能は開発基盤に任せ、AIは付加価値を生み出す部分に使うべきだと述べた。AIは確率的に次の文字を選び出す仕組みであるため、同じ機能を毎回書かせると出力される実装が揺らぎ、品質が安定しないという。一方、個別の業界や案件固有のロジック・画面については、関係者の合意形成に使うプロトタイプも活用しながらAIでブラッシュアップしていくのが望ましいとした。
2つ目の意義は、開発基盤の枠組みがシステムの一貫性と保守性を担保するという点である。枠組みがない状態でAIに積み木のようにコードを積み上げさせると、一点ものとしては見た目の整った画面ができても、少し手を加えただけで画面の一部が動かなくなるといった不具合が生じかねない。認証・認可の処理も単体で完結するものではなく、リクエストを受けてからロジックを経て応答を返すまでの一連の流れに組み込まれている。矢野氏は、基盤が担う処理とAIが作り込む処理をうまく融合させ、基盤の枠組みの中をAIが高速に埋めていく形が望ましいと説明した。
3つ目の意義は費用対効果である。AI駆動開発であっても、本番運用に求められる品質を満たすには、設計・実装・テストという工程は省略できない。従量課金の下でこれらすべてをAIに担わせればコストは膨らむ。速く作れる一方でコストがかさむというトレードオフが生じるため、既存で活用できるものは活用し、活用できない部分だけをAIに作らせるほうが、コストと速度の両方を最適化できるというのが矢野氏の見解である。
製品選定は「家の購入」に似ている
開発基盤の意義を踏まえたうえで、矢野氏は続けて、数ある製品の中から自社に合ったものをどう選べばいいのかという論点に移った。ローコードツールやAI駆動開発をうたう製品は数多く存在し、一見しただけでは違いが分かりにくい。矢野氏は、そうした状況で製品の設計思想を知ることが選定の助けになると述べた。
製品選定は住宅の購入によく似ているという。建売住宅を買えば早く安く住めるが自由度は低く、土地から設計まで自分で決める注文住宅は自由度が高い分、時間とコストがかかる。矢野氏自身も中古物件を購入してフルリノベーションした経験を踏まえ、間取りは固定で内装だけ選べるセミオーダーのような選択肢もあると説明した。ソフトウェアの世界でこの対比に当たるのが、建売住宅のように標準機能の範囲内で要件を実現するFit to Standardと、注文住宅のように業務に合わせて作り込むMade to Orderである。そして、SaaSの活用からフルスクラッチまでの選択肢はカテゴリーとして分断されているのではなく、コストと自由度のグラデーションとして捉えるべきだとした。
市場にあるローコードツールや開発基盤をこのグラデーションの中で捉えると、製品ごとに設計思想が異なり、位置づけも様々である。矢野氏は代表的な製品を例に挙げながら、非エンジニアの現場部門が自ら業務改善アプリを作れることを重視したもの、ビジュアル開発で業務アプリを高速に構築することに強みを持つもの、営業支援・顧客管理を核にエコシステムで業務を広くカバーするもの、オープンソースでバックエンドを即座に立ち上げられるものなど、その設計思想の違いを紹介した。
そのうえで矢野氏が紹介したのが、電通総研が提供するiPLAssである。iPLAssはフルスクラッチと同等の自由度を保持しつつ、業種を問わず必要となる共通機能をノーコード・ローコードで実現するMade to Order寄りの設計思想を持つという。住宅で言えば、セミオーダー住宅のような形だ。向いているユースケースは大規模かつカスタマイズ重視の業務システムであり、この設計思想がエンタープライズの現場でどのように評価されているのか、矢野氏は3つの観点から説明を続けた。
ユーザーが増えるほど、コスパが上がる
エンタープライズ開発基盤としてiPLAssが選ばれる理由について、矢野氏は3つの観点を挙げた。1つ目はライセンス体系である。ユーザー単位のライセンス体系の場合、事業成長に伴って利用者が増えるほどライセンス費用も増加していく。これに対しiPLAssはサーバー単位のライセンス体系を採用しているため、ユーザー数が増えるほどコストパフォーマンスが高まる。矢野氏は、この特徴によりiPLAssはユーザー数の多い大規模システムに適していると述べた。
2つ目の理由は責務分離である。iPLAssはフルスクラッチの効率化という設計思想のもと、汎用的な機能は製品として提供しつつ、企業や案件ごとの個別要件には作り込みで柔軟に対応してきた。この考え方は画面設計にも表れており、利用者カテゴリーごとに異なる画面作成スタイルを持つ。一般消費者(コンシューマー)向けの画面はスクラッチでリッチに作り込み、サイト管理者が使うデータ管理画面は自動生成でコストパフォーマンスよく用意し、その設定を開発者が行うという3種類の画面で構成されている。
この責務分離の考え方が、AI駆動開発との相性の良さにもつながっているという。
Java・XML・MCPが生む相性の良さ
3つ目の理由がAI駆動開発との相性である。コンシューマー向け画面は任意の技術スタックで実装できる。矢野氏は、iPLAssの強みや想定ユースケースといったコンテキストを事前に整備したうえで、Claude CodeとClaude Designを使って短時間でコンシューマー向け画面を実装したデモを紹介した。
バックエンドについても、iPLAssはJavaやGroovyといった汎用言語を採用しているため、独自言語を用いる他のローコード基盤に比べてAIの学習データが豊富で、出力の品質が安定しやすいという。加えて、iPLAssが提供する共通機能の設計情報はXMLベースで構成されており、これもAIが直接扱える形式であることから、AI駆動開発との相性の良さにつながっていると矢野氏は述べた。
2026年6月25日に公開されたiPLAssバージョン4.1のMCPサーバー機能により、AIエージェントがMCP経由でiPLAssの設計情報を扱えるようになった。どのようなデータ構造を作りたいかを日本語で指示するだけで、iPLAssの設計定義が可能になったという。加えて、同バージョンではノーコード・ローコードでの生成AI機能の組み込みもリリースされており、開発画面上の設定だけでAmazon Bedrockや電通総研のAIサービス「Know Narrator」をサイト管理者の画面から呼び出せるようになった。この機能により、AIによる回答作成支援を備えた問い合わせ管理機能や、AIベースのナレッジ検索を備えたFAQ管理機能の提供が可能になっているという。
最後に矢野氏は、Claude CodeやGitHub CopilotでSkillsを使いながらiPLAss向けにAI駆動開発を行うためのツールキットを紹介し、セッションを締めくくった。
AI駆動開発で、エンタープライズシステムの品質と効率を高めたい方におすすめです
iPLAssは、認証・権限管理・ワークフローなどの共通機能を基盤で標準化し、独自要件は柔軟に作り込めるエンタープライズ向けローコード開発基盤です。AI駆動開発と組み合わせることで、開発スピードと品質の両立を目指せます。本記事にご興味をお持ちいただいた方は、ぜひiPLAss製品サイトをご覧ください。

