データと意味のずれを「誰が・どう補完するか」という、繰り返されてきた課題
意味設計というテーマ自体は新しくない。1990年代のDWH・SQLはデータを集めることが目的であり、2000年代のOLAP・Cubeは分析を高速化した。2010年代のBIセマンティックレイヤーは業務用語を揃え、2020年代前半のモダンセマンティックレイヤーは指標を複数サービスで使い回せるようにした。そして2020年代後半の生成AIは、自然言語で聞けるようにした。
技術の形は変わっても、データと意味のずれを「誰が・どう補完するか」という本質的な課題は繰り返し現れてきたこと。そして、生成AI時代では文脈補完者が人間からAIに移り始めたことで新たな課題が生まれていると、尾﨑氏は強調する。
Google Cloudのプロダクトの進化にも同じ構図が見える。2011年のBigQueryは大量データを高速・サーバーレスに分析するものであり、2020年のLooker/LookMLは指標とディメンション、計算ロジックをモデル化した。2021年のDataplexは分散データの管理・監視・ガバナンスを担い、2023年のDataformは変換と依存関係のテスト管理を担う。
そして2024年のGemini in BigQuery・Data Canvas、2025〜2026年のGemini in Looker・Conversational Analytics・Data Agentsに至り、AIがデータと対話して答える段階まで進化してきた。2020年から2023年まではセマンティックレイヤーをどう作るかという「再発明・整備フェーズ」であり、2024年から2026年現在まではAIにどう正しく参照させるかという「参照するフェーズ」だと尾﨑氏は整理する。
セマンティックレイヤーがやってくれるのは、指標の計算ロジックを1箇所に集約し、集計粒度を統一し、権限や参照範囲を管理し、BI・AI・業務アプリから同じ定義を参照できるようにするところまでだ。しかし、「○○を教えて」という問いが経営会議のためなのか、営業進捗のためなのか、施策評価のためなのかによって、使うべき指標は変わる。セマンティックレイヤーは必要条件だが、十分条件ではない。
「いますぐ連絡すべき顧客」をAIに聞くと、複数の答えに割れる
後半パートでは、同社で執行役員CTOを務める岩尾一優氏が登壇し、AIに正しく答えてもらうための整理を「言葉」「データのつながり」「判断ルール」の3つに分けて説明した。
岩尾氏はまず、障害対応を例にAIが生成する回答の現状を説明した。「P1障害INC-2048で、いますぐ連絡すべき顧客は誰か」という問いを、業務の前提を教えずにAIへ投げると、影響範囲を広く見るか、法人顧客に絞るか、優先順位まで固定するかによって、A社・C社・D社、A社・C社、あるいはC社・A社の順と、答えが割れてしまう。
これを防ぐために、岩尾氏はまず曖昧な言葉を「障害対応優先顧客」という業務用語としてKnowledge Catalogに定義する。次に、顧客・契約・サービス・コンポーネント・障害というデータのつながりをBigQuery Graphで整理する。そして判断ルールとして、B2B顧客であること、有効契約を持つこと、契約更新まで60日以内であること、対象障害がP1かつOPENであること、契約サービスが障害の影響を受けるコンポーネントに依存していることという5条件を、検証済みクエリとして固定する。
今回のデモでは、エージェントが判断ロジックを含む SQL を都度生成するのではなく、あらかじめ用意した検証済みクエリを呼び出す構成とした。エージェントに登録するのは、参照してよいテーブルを示す「ナレッジソース」、振る舞いを誘導する「手順」、判断ロジックを固定する「検証済みクエリ」、業務用語の意味を表す「用語集」の4つだ。自然文の質問を受け取ると、用語集と手順を参照して意味をそろえ、どの検証済みクエリを使うべきかを選び、質問からインシデントIDや基準日といったパラメータを抽出して渡す。業務判断そのものは人間があらかじめルールとして固定し、AIは自然文との橋渡しに徹する構成だと岩尾氏は説明する。

