受託開発におけるAI活用の実践。見えてきた課題
セゾンテクノロジーは、HULFTやHULFT Squareといった主力製品を中心に展開するHULFT事業、それらの製品を活用したデータプラットフォーム事業、そしてシステム受託開発事業の3本柱でビジネスを展開している企業だ。
社内のAI活用については、全社標準のチャットボット「Agent Orchestration」を展開しているほか、社内ガイドラインの整理や便利なプロンプトの共有、研究成果の社内展開、定期的な勉強会の実施など、全社的なリテラシー向上に積極的に取り組んできた。
そんな中、河原氏が普段業務の主軸としているシステム受託事業においては、昨年度に2つのAIツールを開発し、全社に展開したという。「プロジェクトアシスタントAI」と「タレントナビゲーターAI」である。
1つ目の「プロジェクトアシスタントAI」は、プロジェクトマネージャーの業務を支援する仕組みだ。ZoomやTeamsなどのツールから取得した会議の音声・録画データをストレージに格納し、AIが議事録を要約して生成する。
これは、単なる文字起こしにとどまらず、会議内でタスクが本当に合意できたのかの確認や、プロジェクトにおけるリスクの分析を実施。さらに、プロジェクトマネージャー(以下、PM)やその上長への通知まで行うという。
河原氏は「このツールにより、議事録作成にかかる時間や、PMがプロジェクト報告をする時間をそれぞれ42%削減することに成功した」と成果を語る。また、情報の透明化やタスク管理の厳格化、リスクの早期検知といった定性的な成果も上げることができたと話した。
一方で、「タレントナビゲーターAI」は課題を残した取り組みとなった。毎年全社員に対して実施しているスキルサーベイのデータや過去の案件対応の履歴をデータベース化し、最適なプロジェクト体制をAIが提案する仕組み。例えば「分散処理技術に特化したエンジニアを2名探している」と質問を投げかけると、該当する社内メンバーを抽出してくれるといった流れだ。
このシステムは、残念ながら社員の70%近くが利用していない状態に陥ってしまった。理由をヒアリングしたところ「そもそも利用シーンがない」「AIを活用しない方がアサインの精度が高い」といった厳しい声が寄せられたという。
「プロジェクトアシスタントAIによって議事録作成やリスク分析における一定の工数削減はできたものの、業務プロセス全体で見れば限定的な効果でした。タレントナビゲーターAIに至っては使われておらず、結果としてROIが高いとは言えない状態だったのです」と河原氏は昨年度の取り組みを総括する。
プロジェクト全体にAIが伴走する「コラボワークAI」
昨年の取り組みの反省を踏まえ、今期からはAI活用のROIを上げるための活動を始めている。それが、受託開発のプロジェクト全体に伴走する「コラボワークAI」である。
これは、受託開発案件の提案・見積もりのフェーズから、設計・開発、そしてリリース後の保守運用に至るまで、プロジェクトの一連のプロセスにおいてAIを伴走させる仕組みだ。
例えば、提案フェーズにおいて主に3つの大きな課題が存在する。1つ目は品質のばらつきを生む「属人化」、2つ目は情報収集や資料作成・レビューにかかる「長時間化」、そして3つ目が「リスクの見落とし」である。
この課題を解決するために、コラボワークAIでは各ステップをAIで自動化・効率化する仕組みを構築。Boxなどのストレージ内に散在している多数の案件やフォルダの中から、過去の類似案件の情報をAIが自動的に収集・抽出し、標準のフォーマットに則ってAIが提案書のドラフトを自動生成してくれる。また、現在Excelを使って手作業で行っている見積書の作成も自動化できるため、作業の属人化・長時間化を防ぐことができる。

提案直前にはプロジェクト審議会による「提案レビュー」を行っているが、ここにもAIを伴走させることでリスク発見の精度を高めることができる。
「当社は品質管理のために、案件ごとに専門部隊による『プロジェクト審議会』という提案前レビューを3、4回ほど繰り返しています。ここでの過去の事例や審議会の指摘といった資源を事前にAIに読み込ませることで、提案フェーズ全体を効率化できると考えました」と河原氏は語る。
使い方としては、提案書のスライドをコラボワークAIに渡すと、同社独自の「77のチェック項目」に照らし合わせて評価が付けられる。例えば、RFPとの整合性はA判定、リスクに関しては洗い出しが不十分のためC判定、といった形で項目ごとにレビューしてくれる。
河原氏は、注目の機能として「デビルズ・アイ」(悪魔のレビューア)を紹介した。これはAIが意図的に批判的な意見を言う役割として振る舞い、人が見落としがちな計画の甘さを指摘する仕組みだ。しかも、批判だけで終わらせずに即時実行可能な処方箋を同時に提供する点が大きな特徴となっている。
河原氏は実際の提案書を本機能にレビューさせたリアルな指摘例をいくつか紹介した。

体制面に関して「有識者が不在です。この技術スタックにおいて高度スキルの保有者が体制にいません」と厳しい指摘が表示されている。それに対する処方箋として「シニアアーキテクトの〇〇氏を、設計レビュー工程において週10時間で良いので技術顧問として追加してください」と、社内の実在する人物を挙げた具体的な解決案が提示された。
また、見積もりやスケジュールに関して「バッファが完全にゼロかつ、データ移行のリハーサルなしで組まれた絵に描いた餅のスケジュールです」と手厳しく批判される例も紹介。これには「本番移行の2週間前に移行判定会議を強制セットしてください」と処方箋が提示されている。
河原氏自身も「私が言われたら結構へこむ」と苦笑するほど、あえて厳しい指摘をAIに提示させる仕組みだ。
その他にも、一般的なレビューの機能でも、表記ゆれや初歩的なミスが適切に指摘される。「顧客の呼称が、貴社(9箇所)とお客様(2箇所)で混在」「頂き(漢字)といただき(かな)が混在」といったミスや、カッコの半角全角の統一など、人間が見落としがちなポイントを網羅的に指摘するという。
セゾンテクノロジーは、なぜ自社でこのようなAIシステムを構築しようと考えたのか。最大の理由は、図らずとも発生してしまうAI活用の「個人依存」を排除するためだという。
「よくあるのが、個人がプロンプトを打ち込んでソースデータを渡すという属人的な使い方です。そうではなく、誰が使っても、我々が何年もかけて積み上げたレビューの実績データをAIに『強制的』に活用させる。そのためにこのような仕組みを作りました」と河原氏は強調する。
泥臭い採算性試算で投資決裁を突破。ROI最大化の3つのポイント
こうした画期的なAIシステムを開発し、業務プロセスに本格導入するには、当然ながら会社からの投資決裁が必要となる。河原氏のチームは「いくら効果があるのか」という経営層からのシビアな問いに対し、非常に泥臭い作業で定量的な効果の試算を行ったという。
具体的には、部門ごとに昨年度の案件数を全部洗い出してヒアリングを実施し、提案書作成にかかる工数をすべて算出した。仮にAI活用で工数を20%削減できた場合、約1,800万円の経済効果が見込めるという数値を算出し、投資決裁を突破したのだ。
河原氏は、これまでの経験に基づいて「AIのROIを最大化する3つのポイント」を示した。
一つ目は、AIを局所的な「点」の成果に留めず、業務プロセス全体へ適用すること。議事録作成などの単発の効率化にとどまらず、すべての業務をAIと伴走させる前提で設計することが重要だという。
二つ目は、定量的な経営数値にコミットすること。「業務が楽になる」といった定性的な目標だけで満足するのではなく、エンジニア自らが事業採算性などの数字に対して責任を持ち、コミットする姿勢が求められる。
三つ目に、事業戦略をAIに組み込み、過去の組織知を強制的に活用することを挙げた。過去の提案・見積もりのノウハウやレビュー指摘といった組織の資産を、「人によって使う・使わない」という属人的な状態から脱却させ、アーキテクチャによって強制的に担保することが鍵だ。
「当社には『炎上プロジェクトを発生させない』などの定性的な事業戦略があります。そういった戦略にしっかりコミットする目標を立てる必要があります」と河原氏は語る。技術と事業目標を直結させたAI活用のあり方を提示し、セッションを締めた。
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