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累計2300万DLを突破!「Yahoo!天気」アプリを人気アプリへと成長させたPM手法【デブサミ関西2016レポート】

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2016/10/24 14:00

 雨雲の接近や台風進路がわかる天気予報アプリとして、累計2300万ダウンロードを突破したという「Yahoo!天気」アプリ。2015年の大幅リニューアルで、インターフェースが見やすくなっただけでなく、さまざまな機能が強化された。その開発責任者は、Yahoo! JAPANの大阪オフィスでITエンジニア歴15年という湯澤秀人氏。“気象に関してはド素人”という同氏がどのようにプロジェクトを牽引し、日本で一番支持される天気アプリとまで言われるようになったのか。2016年9月16日に開催された、Developers Summit 2016 KANSAIでの講演レポートをお届けする。

ヤフー株式会社 湯澤秀人氏
ヤフー株式会社 湯澤秀人氏

フルリニューアルの指針となった“天気を把握できる道具”というコンセプト

 「Yahoo!天気」アプリは、Yahoo! JAPANの「Yahoo!天気・災害」チームによって開発されている。1996年の創業年に始まった「天気」サービス、そして2005年より開始され、2011年の東日本大震災を機に速報通知を強化した「災害」サービスとともに、いち早く社会のニーズに応えてきた。PC、スマホ、そしてアプリにてサービスを提供している。

 「Yahoo!天気」アプリは2010年にAndroid版が、2012年にiOS版がサービスインした。その後、大阪に「Yahoo!天気・災害」チームが移管された2014年頃から、アプリとしての展開を強化するべくフルリニューアルを行い、その結果2015年の「日本におけるスマートフォンアプリ対昨年増加率」第3位を獲得[*]。リニューアルから15ヶ月後の2016年8月現在で累計2300万ダウンロードという人気アプリへと成長した。

[*]:「TOPS OF 2015: DIGITAL IN JAPAN ~ニールセン2015年 日本のインターネットサービス利用者数ランキングを発表~」より

Yahoo!天気アプリ
「Yahoo!天気」アプリ

 プロジェクト責任者である湯澤氏は「ユーザーに喜びと驚きを与えたい」という信条のもと、ユーザーが体験する「全体感」を重視しながら、改善を繰り返し、常に最適なものへと磨き上げてきた。そのエンジニアとしてのスタンスが「Yahoo!天気」アプリを人気アプリへと引き上げる大きな動因となったと語る。

 湯澤氏は2001年にYahoo! JAPANに入社し、約10年間にわたり、エンジニアとしてスキルや責任範囲を広げてきた。それが一転、2010年に任天堂に転職し、ゲームSDKの通信基盤やIDシステムの設計・開発を行っている。その理由として湯澤氏は、「2001年にはYahoo! Inc.など内部技術を利用したサービス開発や、自前のデータセンターと専門部隊による大規模なインフラ環境など、“内のリソース”の活用がサービスづくりの近道だったが、10年を経てAWSをはじめとするクラウドの活用やオープンソースの普及など“外の変化”が到来し、エンジニアとしての未来に危機感を覚えたから」と説明する。そして思惑通り、ゲーム業界という“外の変化”をもろに受ける世界で仕事をしながらスキルアップを図り、いよいよ2014年にYahoo! JAPANに戻ってきたというわけだ。

 しかし、担当として任されたのは「天気サービス」。天気には無頓着でメディア系サービスへの興味が薄かったという湯澤氏にとって、エンジニアとしての面白みが見えにくく、モチベーションのキープに苦労したようだ。しかしそんな状況の中でも、アプリ開発の経験が得られる、ユーザーと接するモノづくりに対する楽しさ等、メリットを感じながら少しずつ動機付けをしていったという。さらにプロジェクトリーダーとして「天気予報を単に表示するサービスではなく、ユーザーが天気を把握(予想)できる道具(Tool)を作る。ユーザーにどう見てもらうかではなくユーザーにどう使ってもらうかを考える」と視点を切り替え、プロダクトのコンセプトを固めていった。

 「作品作りの軸を決める上で、道具は機能の集合として捉え、どのような機能を選択し、どのように配置するかといったことを強く意識した。さらに、いつも使う道具として愛着を持って自然に手に取れるものであることが重要と考えた」と湯澤氏は語る。その軸を定めることで、その後悩んだ時に立ち戻ることができるというわけだ。

 「なにをユーザーに届けたいか、作り手の意志を明確にし、人に自信を持って勧められる“作品”をつくる」というように、湯澤氏は「作品」という言葉を繰り返す。その表現の裏には、湯澤氏の「エンジニアは職人たれ」という思いがあるという。

エンジニアがPMとして成果を上げるための強みと強化すべきポイントは?

 こうした思いのもと、実際のプロジェクトではどのような体制で進行したのか。湯澤氏によると、通常の縦割りの階層型ではなく「面を意識した体制」で行われたという。つまり、各担当が全体を意識しながら自身の役割についての責任を果たし、スキル向上によって領域を拡大することで、分担の垣根を越えた相互サポートが可能になるというスタイルだ。

 そうした組織では、プロジェクトマネージャーは全職種の作業を把握しながら、スキマを見つけてフォローする立場となればよい。またエンジニアがプロジェクトマネージャーになることのメリットについて、湯澤氏は「メンバーのスキルが実感としてわかり、マインドやモチベーションを正確に把握しやすく、コミュニケーションを取りやすい」と解説する。

 そして、プロジェクトについては「動かすまでは『開発』。動いてからは『改善』。」と力説し、「公開後に何をするかを公開前に思い描くことが重要であり、そのためには公開前にどれだけ使い込めるかがカギとなる。よく品質や機能を重視しすぎて機を逃すことがあるが、それは賢明とはいえない。とはいえ、初見の印象は重要であり、多機能というより“刺さること”が重要」と語る。

 「Yahoo!天気」アプリの場合、機を逃さないために、2015年の梅雨・台風シーズン前の公開を決定した上で、「天気予報が今よりも見やすく確認できる」「雨雲レーダーを重要な機能として位置づける」「またそれを認知してもらうUIとする」ことを最低限の条件とした。また、雨雲接近の通知でインパクトを与えることで「使えるアプリ」を印象づけたという。

 そうした作戦が功を奏し、2015年のリニューアル版の公開から大変な話題を呼び、その後、毎月のように機能強化や改善を行ってきた。中にはユーザーの要望から端を発したものも多く、「ユーザーとともにアプリを成長させていく」ことでユーザーの愛着も増したことが伺える。要望は、ストアのレビュー、SNSの評判、そして独自に盛り込んだご意見フォームなどから積極的に集められたものだ。

 ファーストビューのUIに対しては非常に多くの好意的なフィードバックが得られるが、一定数の改善要望もあがってくる。中には「週間天気を10日間みたい」というような具体的なリクエストもある。それに対して、そのまま受け入れて対応するのではなく、例えば「ファーストビューを崩してまで入れるかどうか」など、全体を把握しながら対応することが大切だという。

 新しい機能を追加するには、多彩な検討部分が生じてくる。それらは各担当が把握することが基本だが、どうしてもスキマが生じるため、そこをプロジェクトマネージャーが補完することが必要だという。湯澤氏は「メンバーに対して、全体意識や仕事を通じての成長、作品に対しての責任を持つことを求めつつ、困ったら自分が助けることを伝える。意外に難しいことではあるが、常にプロジェクトを通じてメッセージを送るようにしている」と語る。

 そのため、「伝える」スキルの向上は大きな課題だ。湯澤氏もチームに対するプレゼン資料は要所で頻繁に作るよう心がけているとのことで、その資料を通じて、自分の考えを整理する力や人に伝える力、そしてチームを一つにする力が養われたという。

アップデート概要をチームに伝えるための説明資料
アップデート概要をチームに伝えるための説明資料

 さらに品質チェックも湯澤氏の業務の一つだ。実際に自身のスマホやPCでサービスを利用し、使いやすさや機能等についてユーザーの実感を得るようにしている。

 こうしたことを踏まえつつ、プロジェクトマネージャーは広く新しい技術を常に身につけることが重要であることは違いない。どうしてもプロジェクトマネージャーになると、エンジニアとしての成長を止めてしまう人も少なくない。しかし、自己成長する意識を持って実践すると同時に、メンバーに背中を見せて「彼もやっているなら」と成長を促す目的もあるという。湯澤氏は「昨今、担当分野が狭い技術者が増えているのが心配。IT技術者という括りを意識して、全レイヤーでディスカッション可能な幅広い知識をつけたい」と懸念と意志を示す。湯澤氏自身も、さまざまな試行錯誤を行い、中にはiOSアプリを2種作成し、メンバー向けに勉強会でいきさつを報告するなど、経験の共有も図っている。こうしたプロジェクトマネージャーの在り方を、「自ら率先して成長し、チーム力を上げる役割を担う。そのために、メンバーの中で1番ヒマであるべき」と強調する。

 最後に、「われわれは予報のプロではないがインターネットのプロ。今後も、意識高くユーザーに満足いただけるサービスを提供していきたい」と意欲を語り、「熱い思いが詰まった『Yahoo!天気』アプリをぜひ使ってみてほしい」と語った。

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  • CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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