35年の歴史を持つ巨大システムはいかにして生まれ変わるのか
三菱UFJフィナンシャル・グループのIT戦略を担う三菱UFJインフォメーションテクノロジーにとって、35年にわたり稼働を続ける勘定系システムは、極めて堅牢であると同時に、長年の改修によって複雑化・肥大化が進んだ巨大な構造物となっていた。同社ではこのシステムをモダナイズするにあたり、過去15年間のアプリケーション改修内容を徹底的に分析したという。その結果、頻繁に改修が行われている機能は全体の約30%に過ぎず、残りの70%は安定稼働しており手を加える必要性が低いという事実が浮き彫りになった。
すべてを作り直す「ビッグバン」はコストやリスクの観点から現実的ではない。そこで同社が選択したのが、改修頻度の高いチャネル専用プログラムなどをメインフレームから切り出し、柔軟性の高い分散・コンテナ基盤上で再構築(リビルド・リアーキテクト)する一方で、堅牢性が求められる勘定系データベースやコア機能はメインフレームに残す「ハイブリッドアーキテクチャ」であった。これにより、メインフレームが持つ圧倒的な信頼性と、オープン系システムの拡張性を適材適所で組み合わせる戦略を描いたのである。
「VS Code」「GitLab」モダンなツールを採用した理由とは
アーキテクチャの刷新と同時に、鈴木氏らが直面したのが開発現場における深刻な課題であった。プログラムのブラックボックス化やプラットフォームの継続性といった問題に加え、最も切実だったのが「レガシー言語と人材の枯渇」である。COBOLやPL/Iといった言語そのものの習得は難しくないとしても、黒い画面にコマンドを打ち込むTSO(Time Sharing Option)などの古いインターフェースや、メインフレーム特有の閉じたツール群が、現代のエンジニアにとって高い参入障壁となっていたからだ。
この「ツールの断絶」を解消し、オープン系人材がスムーズにメインフレーム開発に参加できるようにするため、同社は開発ツールとプロセスの共通化に踏み切った。具体的には、エディタをTSOからGUIベースの「VS Code」へ、ソース管理を従来のデータセット方式から「GitLab」へと移行させる。これにより、JavaやPythonを扱うエンジニアと同じ「標準語」で開発ができる環境を整え、さらに生成AIなどの最新技術を適用するための土台を構築したのである。
