ITエンジニア本大賞は、今回で13回目となるITエンジニア本大賞は、CodeZineを運営する翔泳社が主催している「ITエンジニアがITエンジニアに読んでほしい本」を選ぶイベントです。
約1ヶ月間のWeb投票によって、技術書部門とビジネス書部門の上位3冊がプレゼン大会に進出。そして、来場者による最終投票によって各部門の大賞が決定します。
ITエンジニア本大賞 2026では、技術書部門の大賞に谷中瞳さんの『ことばの意味を計算するしくみ 計算言語学と自然言語処理の基礎』(講談社)。
ビジネス書部門の大賞に阪上誠さんの『エンジニアの持続的成長37のヒント』(ビジネス教育出版社)が選ばれました。
いずれも劣らぬ想いのこもったプレゼンが繰り広げられた大会の様子をレポートします。
【技術書部門(50音順)】
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AIエージェント開発 / 運用入門 [生成AI深掘りガイド]
御田稔、大坪悠、塚田真規 / SBクリエイティブ -
現場で活用するためのAIエージェント実践入門
太田真人、宮脇峻平、西見公宏、後藤勇輝、阿田木勇八 / 講談社 -
ことばの意味を計算するしくみ 計算言語学と自然言語処理の基礎
谷中瞳 / 講談社
【ビジネス書部門(50音順)】
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エンジニアの持続的成長37のヒント
阪上誠 / ビジネス教育出版社 -
ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科
堀田秀吾 / SBクリエイティブ -
「分かった!」と思わせる説明の技術 知識ゼロの相手にも伝わるようになる本
佐々木真 / 翔泳社
AIエージェント開発 / 運用入門 [生成AI深掘りガイド]
御田稔、大坪悠、塚田真規 / SBクリエイティブ
![AIエージェント開発 / 運用入門 [生成AI深掘りガイド] AIエージェント開発 / 運用入門 [生成AI深掘りガイド]](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/23452/23452_tech_1.png)
技術書部門の1番目となった本書のプレゼンでは、3人の著者陣から大坪悠さんが登壇。「問い合わせ件数が多くて仕事にならない」「お客さんと話したいのに事務処理する時間がない」といった業務に追われる現場にこそ、AIエージェントを実用的なWebアプリとして活用するアプローチが語られました。
大坪さんが本書を執筆した背景には、多くのAIエージェント本において、扱いづらく業務での実用も難しいコマンドラインやJupyter Notebookでのアプリ構築と運用が説明されていることに問題意識があったからとのこと。
![AIエージェント開発 / 運用入門 [生成AI深掘りガイド] AIエージェント開発 / 運用入門 [生成AI深掘りガイド]](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/23452/23452_01.png)
そこで本書では、誰でもフルスタックで実用的なAIエージェントアプリを作り、AWSにデプロイできる手法を解説することにしたそうです。開発と運用はもちろん、改善する方法も紹介されています。
プレゼンの最後には、大坪さん自身が本書で利用している技術(MastraとAmazon Bedrock)を利用して家族と明るく暮らすためのAIアプリを開発したというエピソードも披露されました。
現場で活用するためのAIエージェント実践入門
太田真人、宮脇峻平、西見公宏、後藤勇輝、阿田木勇八 / 講談社

本書のプレゼンには、5人の著者陣から代表してLangChainの日本アンバサダーを務める西見公宏さんが登壇しました。西見さんは2040年に1,100万人の労働力が減少するという予測を背景に、AIエージェントによる個人の生産性向上が不可欠だと熱弁。
西見さんは2020年頃にAIエージェント同士は創発するかという研究に出会い、衝撃を受けたそうです。そこからAIエージェントの面白さと可能性にはまっていったものの、本番運用されている前例が少なく、本書の執筆には苦労したと言います。品質の保証や安定性・正確性の確保、さらに導入ノウハウもなく、手探りで知見を蓄積していったとのこと。

本書には西見さんをはじめ、AIエージェントに関する様々な領域のプロフェッショナルのノウハウを結集されており、「知る・作る・活用する」のプロセスを網羅して学べる実践的な1冊であることがアピールされました。
ことばの意味を計算するしくみ 計算言語学と自然言語処理の基礎
谷中瞳 / 講談社

続いて登壇したのは、本書の著者・谷中瞳さん。本書のテーマは「LLMはどのように言葉の意味を計算しているのか」という問いです。LLMは分布意味論に基づくため、単語の意味はその周囲にある単語、つまり文脈から形成されています。言い換えると、周囲の単語の出現頻度からベクトル形式を利用して計算しています。
ところが、LLMはなぜか二重、三重の否定を間違えることが多い。谷中さん自身、検索エンジンの開発に従事していたとき、否定を含むクエリの精度が低いことに直面したそうです。しかし、入力から出力までがブラックボックスで、実際にどうやって言葉の意味を捉えているのか説明が難しかったとのこと。

のちにこれがLLMや分布意味論の根本的な課題だとわかり、谷中さんはこれを解決できそうだと見込んだ計算言語学の研究者に転身。計算言語学は記号論理を用いて明示的に意味を記述する形式意味論に基づいており、ことばの意味を文法に従って記述します。
本書はまさに「LLMはどのように言葉の意味を計算しているのか」という問いに計算言語学から応えようとする内容となっています。そしてLLMだけではなく、人がことばの意味をどう捉えているのか、計算しているかも解明されていないため、LLMを使うすべての人にこれらの課題を知ってほしいと谷中さんは語りました。「ことばの意味の真理に近づきたい」という一言が印象的でした。
エンジニアの持続的成長37のヒント
阪上誠 / ビジネス教育出版社

ビジネス書部門最初のプレゼンは、著者の阪上誠さんが登壇。「日本にワクワクしながら仕事をするエンジニアを増やしたい」という想いが語られました。
阪上さんはエンジニアの20代では60%、30代では半数が「静かな退職」状態にあるという現状に危機感を抱き、これまで20年間で9,000人以上のエンジニアと対話してきました。本書ではその中で見出した、エンジニアが成長するためのヒントが紹介されています。
37個をぎゅっとまとめると、エンジニアが持続的に活躍するために考えるべきことは「どう学ぶか?」「どう広がるか?」「どう社会とつながるか?」ということ。特に、エンドユーザーの声を聞き、まだ気づいていない真の課題を技術で解決できるかどうかが鍵だと言います。

そして、エンジニアが自分をどう定義するかも重要だとのこと。分野や手段ではなく、課題や目的で定義すべきというのが坂上さんの考えです。「技術を使って誰を幸せにするか」「社会のどんな課題を解くか」を考え続けることが、エンジニアの持続的な成長にとって最も大切なことだと話してくれました。
ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科
堀田秀吾 / SBクリエイティブ

本書のプレゼンでは著者の堀田秀吾氏さんが登壇し、最初に「エンジニアに効く習慣の設計図を持ってきました」と会場に語りかけました。堀田さんは、人間は現状維持を好むため、意志や根性だけでは学習や目標が続かないと説明。そこで教えてくれたのが、続けるための3つのコツ。
1つ目は、とりあえず1分だけ始めて脳のエンジンをかける「まず動く」。2つ目は、朝のコーヒーを淹れたら最重要タスクを1行だけ書くなど、既存の習慣に新しい行動を紐づける「ハビット・スタッキング」。3つ目は、スマホを別室に置いて強制的に使いづらくするなど、環境を整える「ナッジ」。これら3つを組み合わせた仕組みを作ることが重要とのこと。

本書ではこれらを含めた112個の習慣化の方法がエビデンス付きで解説されています。プレゼンでは具体例として、子猫の写真を見ると作業精度が向上するという研究などが紹介されました。112個の中には、きっと皆さんそれぞれに合った方法が見つかるのではないでしょうか。
「分かった!」と思わせる説明の技術 知識ゼロの相手にも伝わるようになる本
佐々木真 / 翔泳社

最後のプレゼンでは、著者の佐々木真さんに代わって担当編集(翔泳社)の北澤双葉さんが登壇。佐々木さんのスライドを代読する形に。
佐々木さんは「エンジニア以外の人から『何を言っているかわからない』と言われた経験はありませんか?」と問いかけ、専門知識を相手に「正しく理解させる」ことは不要だと言い切りました。
なぜか? それは、相手も正しく理解したいわけではなく、自分が気にしていることを知りたいだけだからです。経営者は「儲かるかどうか」、営業は「顧客に説明できるかどうか」など、立場によってそれぞれ。だからこそ、相手が気にする情報だけを渡して「分かった気にさせる」という方法が重要です。

佐々木さんは最後に、この方法でコミュニケーションにかかる時間を最小化して、エンジニアが本来かけるべき時間、つまり技術を学ぶ時間を確保してほしいとメッセージを投げかけました。
技術書部門とビジネス書部門の大賞と特別賞が決定
以上のプレゼン終了後、観覧された皆さんによる投票が開始。その結果、技術書部門は谷中瞳さんの『ことばの意味を計算するしくみ』、ビジネス書部門は坂上誠さんの『エンジニアの持続的成長37のヒント』が大賞を受賞しました。
『ことばの意味を計算するしくみ』は、近年の技術トレンドを席巻するAIの根本に迫る内容が評価されたようです。また、『エンジニアの持続的成長37のヒント』は、AI時代にエンジニアがどう成長し、立ち振る舞うべきかの指針となる内容が好評でした。
また、前回技術書部門で大賞を受賞した『7日間でハッキングをはじめる本』の著者・野溝のみぞうさんが『現場で活用するためのAIエージェント実践入門』を特別賞に選出。ビジネス書部門の大賞を受賞した『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』の担当編集者・宮本沙織さんが、『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード… 科学的に証明された すごい習慣大百科』を選出しました。
これにてITエンジニア本大賞 2026は閉幕です。まだ読んだことのない本があれば、ぜひこの機会に読んでみてください!
