黒帯として築いた、人とのつながりを活かしてさまざまな活動に取り組む
――現場に近い黒帯という立場において、開発の大規模化によりいまどのような課題が生じていると感じるか。
楠氏 ユーザー企業やSIerでは大規模システムの委託/受託開発が多い。使える技術が限られていた時代はできることも限られており、システムの仕様を割と書きやすかったと思う。しかし技術が進歩してプログラミング言語の生産性が高まり、さらにWebの表現力が増してきて、Facebookなど一般的なユーザーが利用するWebサイトでも真っ先に最新技術が取り入れられるようになり、求められる機能を満たすだけでなく、操作性やレスポンスの良さなども追及していかなければならなくなった。そういった非機能要件の定義には、機能要件とは異なるノウハウが必要であり、事前に仕様を明確化することが難しい。同様のことがデータ分析分野でもいえる。データを分析していく過程では、「あらかじめこれをやっておけばよい」ということはなく、どのようなアルゴリズムが有効か試行錯誤しながら仕様を決めていくことになる。Yahoo! JAPANはエンジニアを抱え、内製することでそういった課題に対応しているが、日本ではシステムを全て内製できるユーザー企業は多くない。一方でSIerは、エンジニアはいても開発するシステムや分析するデータは持っていない。そういったねじれ構造をどう解消していけばよいか、問題意識を持っている。
いろいろな立場の人と会ったり海外で国際会議に参加したりする機会が増えたが、日本の産業構造が他の国では決して当たり前のものではないことを実感する。例えば、米国では雇用の流動性が高く、ユーザー企業にもプロのIT人材が数多くいて、プロジェクトの終了とともに転職するといったことが普通に行われている。黒帯として社外で活動して視野を広げていくことで、日本の現状について課題が生じた経緯や今後何ができるかを考えるヒントが得られていると思う。
――Yahoo! JAPANではどのような課題があるか。また、黒帯としてどのように課題解決に取り組んでいるか。
里山氏 Yahoo! JAPANは規模が大きく、SIerに似た組織構造をしている。ただ、経営層が若くて勢いがあり、何かを始めるときはトップダウンで展開が早い。一方で、ボトムアップで何かを変えたいという思いが上に届きやすいことも同時に求められる。現場の課題をボトムアップで伝え、トップダウンで解決策を展開していくには、その背景をきちんと理解して説明できる人が動き、意思決定の場に携わる必要があると思う。そういうところで黒帯の立場をうまく使いたいと考えている。
Yahoo! JAPANは開発するアプリの数が多く、規模が大きなアプリは人材が潤沢である一方、他社と比べると規模感があるのに数名で運用しているアプリも見られる。黒帯としては、こういった課題を上に提案するだけでなく、技術のブランディングをきちんと行い、Yahoo! JAPANの門を叩く人を増やすように頑張っていきたい。
伊藤氏 アジャイルは一般的に開発に閉じたものと思われがちだが、開発チームだけを改善しても、マネジメント層や経営層がそれを認めないと意味がない。前職で取締役にアジャイルの施策について承認をとりつけて成功させた経験があり、Yahoo! JAPANでも経営層やマネジメント層へ、アジャイルそのものがスムーズに受け入れられるように、黒帯として活動している。
倉林氏 黒帯になると社内外からいろいろな相談を受けることが増える。自分自身もITの技術を使っていろいろな課題を解決していきたいという思いで黒帯になったが、新しい認証技術を導入するにはビジネス面、コスト面でのハードルが高く、社内外のいろいろなサービスの調整がすごく大変になる。逆に言えば、ビジネス上のメリット、必要なコストについて各サービスおよび社内外に説明可能であれば新技術を導入できるため、そのあたりにはやりがいを感じて活動できていると思う。