スーパーマンに頼る組織構造、その前兆は「意思決定の質・スピードの低下」にあり
スマートバンクは、Visaプリペイドカードと家計簿アプリが一体化したtoC向けサービス「ワンバンク」を提供している。特に、夫婦やカップル向けの「ペアカード」は、日々の面倒な精算作業を自動化し、家計管理をスムーズにするサービスとして順調にユーザー数を伸ばしてきた。
急速な事業成長に伴って、同社は2024年よりプロダクト開発の体制を短期解散型のプロジェクトチームから、長期固定型の「Misson Team制度」へと移行した。これは、チーム内にドメイン知識を蓄積し、中長期的な視点に立って腰を据えた開発を行うための戦略的判断であった。
事実、この体制変更と積極的な採用活動によってエンジニアの人数は約1.5倍に増加し、クレジットカードや銀行口座との連携機能、AIを活用した支出チェッカー、さらにはApple Payへの対応など、事業の収益性を高める大型アップデートを次々と実現させることに成功した。
しかし、その陰で深刻な組織課題が顕在化しつつあった。それが「ミッションチームの管轄外となる保守・運用課題」の放置である。新規開発に選択と集中を行う一方で、過去3年間に作られた既存機能の保守や、ユーザー増加に伴うシステム全体の負荷対応といった横断的な課題に対するオーナーシップが曖昧になってしまったのだ。
当初は、部全体の定例会議やパフォーマンス監視ミーティングを通じて、手の空いている者が適宜対応する全員参加型のスタイルをとっていた。だが、人数が20名規模に膨れ上がると、会議での発言機会は減少し、当事者意識が希薄化していった。三谷氏は当時の状況を次のように振り返る。
「人が多くなればなるほど、意思決定の質やスピードが落ちていったと感じた」
三谷氏はこの状況を、サッカーのフォーメーションに例えて分析した。あるポジションには不必要に人が群がっている一方で、手薄なポジションがあり、最終的には古参の優秀なエンジニア(スーパーマン)が広範囲をカバーして疲弊していくといういびつな構造である。暗黙知や個人の主体性に過度に依存したマネジメントの限界を悟った三谷氏は、人数増を味方につけ、重要課題に対して先手を打って解決できる新たな枠組みが必要であるという仮説に辿り着いた。
