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アートにおける「再現性」とは アートがより社会に浸透するために必要なこと

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 本連載のテーマは「ビジネス×アート」。コンサルティング会社に勤務するかたわら、アートの作品制作に関するワークショップへの参加、イベント運営などを積極的に行う奥田さんとともに、アートとの関わりを探ります。第7回では、アートがこれからの日本に浸透するために必要なことについて考えていきます。

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 第6回はアートとビジネスの可能性をテーマに、地域の芸術祭やアートの持つ創造性について述べた。最近では多くの人がアートのポテンシャルに着目し、アートを通した活動をしている。しかし、同時に難しさに直面し、試行錯誤しているフェーズであるとも感じる。今回は、アートがより社会に浸透するために必要なこととはなにか、考えてみたい。

アートに再現性はあるのか

 ビジネスの成功要因はさまざまだ。戦略、マーケティング、ファイナンス、プロダクト、オペレーション、市場の情勢やタイミングが理由かもしれない。経営者や私のようなコンサルタントは、これらの要素をKPIとして数字に落とし、日々改善や新しい事業への挑戦を続けている。

 このようなビジネスにおける成功の理由は、書籍やセミナー、ネットなどで誰でも情報を手に入れることができるようになった。しかし重要なのは情報そのものではなく、ビジネスの現場での「再現性」にあると私は考えている。極端な言いかたをすれば、どれだけビジネス本を読んだとしても、結果が出なければ意味がないのである。

 そのため、情報を得るときは、自分が実践できるレベルまで解像度を上げる必要がある。つまり、抽象的なことは具体的なアクションに落とし、具体的なことは抽象度を上げ、その背景にある本質を見極めるべきである。それを繰り返すことで、自分の行動が変わり、それが結果につながるのだ。

 誤解を招くことがないよう補足すると、「再現性」という言葉は、「どのようにビジネスにおける失敗をなくすか」ということに近い。Google、Apple、Facebook、Amazonのように大成功の企業の成功要因を真似しても、当然ながらGAFAクラスの企業を再現することは難しい。多くの人が陥りがちなポイントの本質を高い解像度で理解し、目の前に応用する力こそが「再現性」なのである。

 では、アートに「再現性」はあるのだろうか?日本では、多くの地域が芸術祭のフォーマットを活用して取り組んでいることもあり、一定の再現性はありそうである。しかし一方、アートとは、オリジナルであることに価値があり、ユニークなアーティストの思考・表現こそが重要視される。このことがアートには才能が必要であると思われ、アートの敷居を高くしている原因の一つと思われる。

あえて失敗を避けるアプローチを選ぶ

 アートとは不思議な魅力を持っている。それは、美しさや人の心を感動させる力だ。これまで多かれ少なかれ、誰もがアートに心を動かされてきたのではないだろうか。そのためか「アートはクオリティが高くあってしかるべき」と感じるバイアスを、人は持っているように思う。

Art Basel Hong kong 2019,Mit Jai Inn氏の作品(筆者撮影)
Art Basel Hong kong 2019,Mit Jai Inn氏の作品(筆者撮影)

 私自身、さまざまなアートプロジェクトに参画し、それを実感している。誰もが一生懸命にクオリティの高いものを目指し、意味のある作品や成果を生み出そうとしている。その経験はとても素晴らしいことであり、私にとっても財産となっている。

 しかし、想いが強すぎるせいだろうか、なにか上手くいかなくなると、立て直しが難しくなる場合も多いように思う。素晴らしい作品や成果でなければ意味がないと思っており、モチベーションが落ちてしまうようだ。気合と根性でその場は乗り切ったとしても、同じような状況に直面したときには自分自身含め、参加者が疲弊してしまう。これは芸術祭などのアートプロジェクトだけでなく、アート制作そのものにも当てはまる。

 この一種の感情的根性論が、アートにおける再現性の低さの要因のひとつではないだろうか。だからこそ、ごく一部のトップアーティストだけが生き残る世界となっているのだ。これは長期的に見ると、サステナブルな構造とは言い難い。GAFAのようなトップ企業だけでなく、さまざまな規模の会社が存在しているように、アートについてもトップアーティスト以外の人が活動していることが重要なのだ。

 ビジネス視点で考えると、このようなアートやアートプロジェクトは、あまり上手く進んでいかないプロジェクトに分類されるだろう。企業で新規事業を立ち上げたり、スタートアップで新しいサービスをローンチするときなど、最初はβ版からスタートする。いきなり何十億円も投資して、完璧なサービスを作り上げることはまずない。リサーチで仮説を立ててみても、A/Bテストなどで顧客の反応を確認しない限り、本当に需要があるかどうかはわからないため、一定のプロダクト品質は担保するものの、最適化・スケールに入る前に、入念な検証を繰り返すのである。

 しかしアートになると、「アート=クオリティ」が高い作品という先入観からか、上述したようなビジネスでは当たり前のアプローチがスキップされる。もちろん、このような失敗を回避することに重きを置いたアプローチでは、世に名を残す作品は生まれないかもしれないが、トップアーティストになることだけが、アートのすべてではない。クリエイターやビジネスパーソンがアートやそれにまつわるプロジェクトにこういったアプローチを持ち込むことで、持続的なアーティスト活動を支えることができるようになるのではないだろうか。

この記事の続きは、「CreatorZine」に掲載しています。 こちらよりご覧ください。

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https://codezine.jp/article/detail/13424 2021/01/05 08:00

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