業界各社は実質同じ方向へ、SDDは「ハーネス」設計の中核として残る
そして方向性が収束している現状に目を向けてみよう。AnthropicはCLAUDE.md(constitution相当)とAgent Skills、OpenAIはAGENTS.mdによる文脈・規約の外部化とplan/specモード、GitHubは先述したようにconstitutionからimplementまでをフルに形式化したSpec Kit、AWSはAI逆質問を人間が検証しながら要件化するAI-DLCなどを提供している。
各社とも明確に「SDD」とうたわないものの、構造化された仕様でAIを駆動するという同じ原理に到達している。鈴木氏は「誰もSDDと言わなくなったが、実質的に各社は同じことをやっていると言っていいのではないか」と指摘する。ツールごとに分かれていた規約ファイルをAGENTS.mdに正本化する動きや、AGENTS.mdとMCPの標準化がLinux Foundation傘下の中立団体AAIF(Agentic AI Foundation)に委ねられたことも、この収束を裏付けることができるだろう。
鈴木氏はAndrej Karpathy氏(現Anthropic、元OpenAI 創設メンバー)の考えを引用した。バイブコーディングは誰でも記述だけでアプリを作れるようにする、いわば開発の「最低ラインを上げる」もの。対してエージェンティックエンジニアリングは、失敗もするエージェントを正確性・セキュリティ・保守性を保ったまま統率する専門規律であり、「到達できる上限を上げる」ものだという。SDDやハーネス設計は後者にあたる。失敗を先回りしてCLAUDE.mdにルールとして刻む実践なども、同じく規律で上限を上げる取り組みといえる。
近年の進化を振り返ると、2022年以降は単発プロンプトのプロンプトエンジニアリング、2024年以降はRAGやマルチターンのコンテキストエンジニアリングを経て、2026年以降は自律・並列・本番運用を前提としたハーネスエンジニアリングへと移ってきた。
ハーネスとはAIが走り出す前に「どう走るか」を伝える層のこと。Spec Kitのconstitution/specify/clarifyはその具体的な実装にあたる。lint・型・build・test・CIで逸脱を機械的に検知するガードレールと組み合わせることで、モデルの周りを設計していく。各社とも、SDDの基本的な発想は消えておらず、ハーネス設計の中核として、AIをどう走らせるかが中心にある。
最後に鈴木氏は、持ち帰ってほしいポイントを3つにまとめた。1点目はコードの前に仕様を構造化すること。2点目は異なる仕組みを用いつつも、業界各社は同じ方向へ向かっており、SDDは消えたのではなく収束したこと。そして3点目は追うべきは個別機能ではなく「型」であること。個別技術は陳腐化するが、考え方は陳腐化しない。問われるのは「どのツールを使うか」よりも「どう仕様を構造化するか」だ。
まずは次のステップとして「手元のリポジトリにspec-kitを入れて/speckit.specifyを1回実行してみよう」と提案し、鈴木氏は講演を締めくくった。
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