2028年までにソフトウェアの欠陥は25倍に?大企業でのAI開発には何が必要か
AIエージェントによるコード生成の普及によって、アプリケーション開発は急速な転換期を迎えている。セッションの冒頭、OutSystemsジャパンの阿島哲夫氏は、エンタープライズソフトウェアエンジニアの大半が数年以内にAIコーディングアシスタントを利用するとの予測や、すでにソフトウェアの相当部分がAIによって生成されているとの調査を紹介した。顧客企業のCIOやエンジニアとの会話でも、AIを使った開発が主要な話題になっているという。
しかし、コードを素早く生成できるからといって、企業が安心してシステム開発・運用に使用できるわけではない。大企業では、複数のシステムを横断して企業のポリシーやルールに準拠し、セキュリティや品質を一定水準に保つ必要がある。開発速度だけを追求すれば、かつて表計算ソフトなどで作られた「野良アプリ」のように、AI生成アプリが乱立する恐れがある。そのため、多くのユーザー企業が、検証や技術検討の段階から踏み出せずにいるのが実情だ。
ここで阿島氏は、企業システム開発におけるAI活用に特有の課題を、以下の3点に整理した。
1点目は、「コンテキストギャップ」だ。AIは指示された機能を短時間で実装できても、企業が保有するシステムの全体像を自動的に理解しているわけではない。既存のアプリケーションやライブラリ、データ、外部接続、それらの依存関係を知らないまま開発すれば、アーキテクチャに不整合が生じたり、似たようなアプリケーションを重複開発したりする可能性が高まる。
2点目に、「急速な変更による影響範囲の拡大」を挙げた。AIの開発速度は人間を遥かに上回るが、その内容を確認し、テストし、承認する側の処理能力が追いつかない。コードの生産量がレビュー能力を上回れば、不具合や設計上の問題を見逃したまま、変更による影響が広がりかねない。
そして、3点目は「接続および運用のリスク」だ。外部のデータソースやAPIへの接続がアプリケーションごとに個別実装されれば、接続の管理やガバナンスが困難になる。加えて、開発ツールやプロンプトの違いによってアーキテクチャの異なるアプリが乱立し、セキュリティやパフォーマンスの一貫性が失われてしまう。
阿島氏が紹介した調査によれば、ITリーダーの67%がAIによるアプリ開発のガバナンスに自信を持っていないという。また、バイブコーディングの普及に伴い、2028年までにソフトウェアの欠陥が2500%増加するとの予測も出ている。阿島氏は「エンタープライズにおけるAI活用の課題は、突き詰めると、ガバナンスと品質に行き着く」と指摘した。
こうした課題への対策として注目されているのが「ハーネスエンジニアリング」、つまりAIエージェントに対してどのような前提やプロンプト、制約を与えるかを体系的に管理する手法だ。しかし阿島氏は、こうした仕組みの構築・運用にかかるコストが見過ごされがちだと警鐘を鳴らす。
「先進的なエンジニアほど、生産性向上のための仕組みづくりに頑張りすぎてしまう傾向がある。その反面、ソフトウェアのライセンス費などの見えるコストと比べて、人件費などの隠れたコストが軽視されがちな点には、注意しなければならない」(阿島氏)
ローコードとAIエージェントが融合する次世代開発基盤
企業システム開発におけるAI活用が抱えるこれらの課題に対し、OutSystemsはどう応えるのか。阿島氏は、2025年に同社が打ち出した新たな方向性を紹介した。
同社は従来、ローコードアプリケーションプラットフォームとして認知されてきたが、今後は「Agentic Systems Platform」を目指すと宣言した。AIエージェントを使ってアプリケーションを開発するだけでなく、AIエージェント自体の作成、デプロイ、運用までを一つの基盤で支える構想だ。
この転換の中核を担うのが、AIがOutSystemsアプリを開発する際に参照するレイヤーである「Enterprise Context Graph」だ。OutSystemsアプリのアーキテクチャやベストプラクティスの情報に加え、顧客の契約環境に存在する他のアプリケーション、ライブラリ、外部データソースへの接続情報を網羅的に把握している。企業固有のコンテキストを網羅することで、先ほどのコンテキストギャップの課題を解決することができる。
このEnterprise Context Graphを基盤に、同社はさまざまなAI機能をリリースした。2025年にリリースされた「Mentor」では、自然言語で用途や利用者、管理したいデータ、画面構成などを伝えると、画面、ロジック、データのすべてにわたってAIがアプリケーションを構築してくれる。
開発ツール上では、AIとの対話を通じて、データベースの項目追加からロジックの変更、画面の修正までさまざまな作業を行える。内部ではEnterprise Context Graphを参照しているので、アーキテクチャの一貫性やセキュリティ、パフォーマンスが一定水準で担保されるのも強みだ。さらに、生成されたアプリケーションは従来のOutSystemsのローコードアプリケーションとして出力されるため、開発ツール上で内容をビジュアルに確認することもできる。
ただし、Mentorは専用のWeb UIや開発環境での利用を前提としていた。そこで6月に同社が発表したのが「OutSystems Agent Experience」だ。これはEnterprise Context Graphと、その周辺のプラットフォーム機能を、MCPサーバーとして外部に公開したものだ。これにより、Claude Codeなどの外部AIコーディングエージェントからもOutSystems上にアプリケーションを作成できるようになった。外部エージェントとの連携により、プラットフォーム標準の統制と両立しながら、企業固有のコンテキストへの対応力が高まったという。
例えば、画面のスクリーンショットやFigmaのデザインを参照させてUIを生成したり、定義書やER図からデータ構造を作成したりすることもできる。
OutSystems+AIで実現する、品質とパフォーマンスを担保したアプリ開発
阿島氏によれば「ローコードとAIアシスタントによる開発が融合することで、OutSystemsは開発、運用、実行環境、監視、テストのすべてを統合したプラットフォームとなった」という。ローコードの開発しやすさ、OutSystemsプラットフォームのセキュリティ、安定性、ガバナンスといった強みをそのまま生かしながら、AIによる生産性の高さも取り込んでいくというアプローチだ。
一方で阿島氏は、AIが自然言語からコードを作れるようになったことで、「もうローコードは不要ではないか」という顧客の声を紹介した。しかしエンタープライズでは、ソフトウェアエンジニアだけでなく、業務部門や情報システム部門など、コーディングを専門としない多様な人材が関わることになる。
その観点で阿島氏は、「AIが生成するプログラミングコードよりも、ローコードの方が、人間が目で見てメンテナンスする際に優位性がある」と、ローコードの優位性を強調する。加えて、OutSystemsの強みである、アーキテクチャの一貫性や、セキュリティ・ガバナンス機能を生かし、技術的負債を抑制しながら、品質とパフォーマンスを担保したアプリ開発が行えるのも、大きな利点だ。
エンタープライズにおけるAI活用の成否は、企業固有のコンテキストを把握しながら、AIの高い開発生産性と、企業が求める品質、セキュリティ、ガバナンスを両立できるかにかかっている。そのコンテキストは、必ずしも機能要件だけでなく、企業のIT環境といった非機能要件も網羅する必要がある。OutSystemsが目指すのは、これらを実現するためのエンジニアの労力を最小限に押さえつつ、企業ソフトウェアのライフサイクルを網羅するプラットフォームだ。本講演を通して、阿島氏は、AIを企業システム開発へ安全に組み込むために、ローコード基盤の役割を再定義するビジョンを提示したと言えよう。
OutSystemsジャパン株式会社からのお知らせ
OutSystemsは、AIを活用したローコード開発プラットフォームのリーダーとして、世界中で数千もの顧客から信頼を得ています。試験段階のAIを本番稼働させるにあたり、人材不足、レガシーシステム、データ品質の問題、ポイントソリューションの分断化など多くの障壁がある中、OutSystemsは実績あるローコードプラットフォームとAI駆動の開発エクスペリエンスを提供し、セキュリティ、拡張性、ガバナンスを確保しながら、最大10倍のスピードでイノベーションの実現を支援します。
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