40年成長を続けた勘定系、「変わらない領域」に潜む歪みの正体
三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社(MUIT)は、三菱UFJ銀行や三菱UFJ信託銀行、三菱UFJニコスなど、MUFGグループ各社のIT・デジタル戦略を担う企業だ。鈴木重統氏はエンタープライズコンピューティング本部の副本部長とコアバンキングインテグレーション部の部長を兼任し、メインフレーム環境の管理を担当している。
鈴木氏が最初に示したのは、勘定系システムのタイムラインだ。1987年の第3次オンラインシステムを起点に、アーキテクチャの骨格をほとんど変えないまま、約40年にわたって機能を継ぎ足しながら稼働を続けてきた。2000年代前半までは規制緩和やチャネル・プロダクトの段階的な追加による「連続的な変化」だったが、2000年代後半以降はインターネットやモバイルバンキングの急速な普及、AIやブロックチェーンといった破壊的技術の出現により、「非連続的な変化」へと質が変わった。事業の進化スピードがシステムに大きく依存する以上、システムの柔軟性やアーキテクチャそのものが競争力を左右する時代になったというのが、鈴木氏の現状認識である。
ここで鈴木氏が強調したのが、「モダナイゼーション=脱メインフレーム」という単純な図式への違和感だ。UI/UXを担うチャネル層は市場の変化に追従して継続的に進化・再構築される一方、勘定系コアを含むバックエンド層は長期間にわたって同じ機能を提供し続け、業務追加のたびに複雑化してきた。この「変わる領域」と「変わらない領域」の間に歪みが生まれ、部分最適の積み重ねによって全体最適が損なわれていく。鈴木氏は、この歪みを解消することこそがモダナイゼーションの本質だと位置づけた。
「ITの都市計画」としてEAを導入し、レイヤーで課題を可視化する
この歪みに向き合うための拠り所として鈴木氏が紹介したのが、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の考え方だ。EAとは、ビジネス目標を達成するためのIT投資とシステムデザインをガイドするフレームワークであり、いわば「ITの都市計画」に当たる。導入の目的は、業務戦略とシステム設計の整合性確保、個別最適から全体最適への転換、投資判断の指針確立にある。副次的な効果として、大規模システムの可視化や組織内コミュニケーションの改善、アーキテクトの育成にまで及ぶという。鈴木氏は「モダナイゼーションは技術刷新ではなく、全体設計の問題だ」と位置づけた。
MUITはこの考え方に基づき、レイヤー・アーキテクチャを基本アーキテクチャとして採用している。システム全体をアプリケーション・データ・テクノロジーの3レイヤーに分け、さらにアプリケーション層を「チャネル(顧客接点)」「ビジネスフロント(業務機能)」「連携基盤(システム接続)」「バックエンド(基幹業務)」の4層に細分化する。システム開発の際にはこの機能配置とレイヤーを明確にすることで、新規システムの最適な配置と機能分割を判断し、全体最適を意識した設計を行っているという。
このレイヤー構造を当てはめると、チャネル・ビジネスフロント層は柔軟性・拡張性が求められる「変化が速い領域」、バックエンド・データ層は安定性・信頼性が求められる「変化が遅い領域」として整理できる。MUITが実際に構築・運用しているのは、連携基盤からバックエンド、データの一部までの範囲であり、この基盤はIBM Zで構成されている。
