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進化するエンジニア組織

「一点もの」であるソフトウェア開発にセルフマネジメントが欠かせない理由とは?【倉貫義人氏×小田中育生氏対談】

 AIによってコードを書くコストは劇的に下がった。その結果、エンジニアが向き合う課題は、単にものを作ることから、より本質的で高度な問いへと移りつつある。答えのない課題に取り組み続けるには、技術力だけでは十分ではない。困難な状況でも前進する精神的な強さや、チームと健全な関係を築く力など、仕事に向き合う姿勢そのものも大きく影響する。継続的に成果を上げるためのカギとなる考え方が「セルフマネジメント」だ。本記事では、『自分と社会をいい感じにする 仕事技芸論』の著者であるソニックガーデン 代表取締役社長の倉貫義人氏と、『エンジニアのための自己管理入門』の著者であるKDDIアジャイル開発センターの小田中育生氏をゲストに迎えた。2人の対談を通じて、AI時代のエンジニアに求められるセルフマネジメントとは何かを掘り下げる。

エンジニアにセルフマネジメントが必要な「深いわけ」とは?

──本日は「セルフマネジメント」をテーマに、お2人との対談を通して、AI時代のエンジニアの働き方について探りたいと思います。小田中さんは『エンジニアのための自己管理入門』を執筆され、セルフマネジメントの重要性を訴えています。そこで最初にお伺いしたいのですが、まずは辞書的な定義ではなく、小田中さん自身の言葉で「セルフマネジメント」とは何を意味するのか説明していただけますか。

小田中:セルフマネジメントを構成する要素は3つあります。1つ目は主体性、つまり自分がどこに向かいたいのか、どのように辿り着きたいのかを、自らコントロールしようとする意志のことです。2つ目はメタ認知です。これは自分自身の状態やスキル、さらには思考、感情などを俯瞰して認識する能力を指します。3つ目がレジリエンスです。いかに主体性を持っていても、外部の制御不能な出来事に遭遇することは避けられません。そのような場面でパニックに陥らず、自分が主体性を失いかけていることに気付き、コントロールを自分の手に取り戻す力が重要となります。一言で表すと「自分で自分のハンドルを握っている状態」を維持し続けるということです。

KDDIアジャイル開発センター株式会社 戦略本部 スクラムマスター 小田中育生氏
KDDIアジャイル開発センター株式会社 戦略本部 スクラムマスター 小田中育生氏

──なぜソフトウェアエンジニアにとって、セルフマネジメントが重要なのでしょうか。

小田中:それは、ソフトウェア開発が「一点もの」を生み出す営みであり、ハードウェアの大量生産とは根本的に異なるからです。ソフトウェア自体はデジタルなので、コストを掛けずに無限に複製できます。それでも新たに開発するのは、誰も解いたことがない課題を解決し、まだ見ぬ価値を生み出すためです。誰もやったことのないことには不確実性が伴います。うまくいかないこともしばしばです。それを乗り越えるには、モチベーションを保ちながら、自らの意志で課題解決のサイクルを回していかなければなりません。

 さらに、ソフトウェア開発は継続的な営みでもあります。かつて「魅力品質」だったものが「当たり前品質」になることも珍しくありません。現状維持を目指したり、同じことを続けたりしていると、世の中から置いていかれてしまうのです。価値あるソフトウェアであり続けるためには絶えずアップデートする必要があり、それを担うエンジニアにも持続的な成果が求められます。

 新しいものを生み出し、それをアップデートし続けるためには、常に自らのコンディションをコントロールすることが欠かせません。ですからエンジニアにとってセルフマネジメントは必要なのです。

倉貫:ソフトウェアは「一点もの」という考えに、私も強く同意します。エンジニアの仕事は、大量生産を前提としたルーチンワークとはまったく異なる、再現性のない仕事です。毎日同じ作業を繰り返すことはないし、十人十色の業務がある。ソフトウェア開発は、毎回新しい本を書くことと似ているかもしれませんね。

株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫義人氏
株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長 倉貫義人氏

小田中:その感覚、すごくわかります。

倉貫:かつては本を1冊ずつ書き写して複製する仕事が成立していた時代もありましたが、今ではその作業自体には価値はないですよね。仕事として成立するのは、最初の1冊目を作り出すことです。それは作り手である本人にしかできません。その本に価値があるかどうかは、書かれている内容次第です。しかし、他者からの指示・命令によって、その価値を高めることができるでしょうか。例えばAIに「良い本を書いて」と命令しても、良いアウトプットは出てきません。考え抜いて、細かく中身を指示して書かせたとしたら、もはやそれは指示した人間が著者です。

 ソフトウェア開発も同様ではないでしょうか。良いソフトウェアは、指示・命令からは生まれませんし、指示・命令できないものを管理することはできません。だから私たちは、あえて自己管理ではなくセルフマネジメントという言葉を使っています。

小田中:おっしゃる通りですね。実は私の著書も、原題は「セルフマネジメント」でした。ただ「マネジメント」という題だと、対象がマネージャー限定だと誤解される恐れがあり、「自己管理」という言葉を使っています。

倉貫:小田中さんの本も読みましたが、うちの社員にとっても大いに参考になる内容だと思いました。手に取ってもらえるタイトルをつけるのは大事ですよね。

 それでも我々は、管理とマネジメントは異なる概念だと考えます。管理とは、Excelで帳簿をつけてチェックしていくような、統制の意味合いが強い言葉だからです。それを自分に当てはめるなら、自己をルールで律することだと言えるでしょう。しかしマネジメントの本来の意味は、物事をなんとか成し遂げることです。さらに言えば、なんとかした結果「いい感じ」にすることがマネジメントの目的です。マネジメントの翻訳語として、「管理」はあまり良い言葉ではないですね。

 私たちがやりたいのは、自分自身を「いい感じ」にすることです。その結果、良いソフトウェアを生み出し、自己実現につながり、顧客や周囲の人と良い関係を築くこと。このような広い意味でセルフマネジメントと言っているので、遵守すべき具体的な行動を定めてはいません。

──小田中さんの著書もルールブックではなく、考え方のポイントを示すものですよね。目指すところは近いように感じました。

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管理したい恐怖をどう乗り越えるか? ソフトウェアの本質と「内発的動機」

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この記事の著者

Innerstudio 鍋島 理人(ナベシマ マサト)

 ITライター・イベントプロデューサー・ITコミュニティ運営支援。 Developers Summit (翔泳社)元スタッフ。現在はフリーランスで、複数のITコミュニティの運営支援やDevRel活動の支援、企業ITコンテンツの制作に携わっている。 Twitter:@nabemasat Facebook Web

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

関口 達朗(セキグチ タツロウ)

フリーカメラマン 1985年生まれ。東京工芸大学卒業後、2009年に小学館スクウェア写真事業部入社。2011年に朝日新聞出版写真部入社。2014から独立し、政治家やアーティストなどのポートレート、物イメージカットなどジャンルを問わず撮影。2児の父。旧姓結束。趣味アウトドア。

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