やる気を高めるのではなく削ぐ要因を取り除く、ソニックガーデンの「徒弟制度」
──続いて倉貫さんにお伺いします。ソニックガーデンにおける、組織文化や環境づくりの取り組みをお聞かせください。
倉貫:私たちは「やる気を出させる」とか「熱量を高める」といった施策はしていません。他人のやる気を高めることはできないからです。しかし、モチベーションを損なう原因を取り除くことはできます。私たちが取り組んでいるのは、内発的動機付けを損なう要因を取り除くことです。
創業から10年ほどは中途採用のメンバーだけだったので、当時は給料を一律に設定し、目標管理も評価もしていませんでした。目標管理なんて、ハードルを低く設定した人が得をするものです。だから、儲かったらその分みんなで山分けすればいいという、シンプルなスタイルを採用していました。
それを成立させるためには、スキルが高く、かつ「良い仕事をしたい」という思いが強いエンジニアを採用することが不可欠です。そのため、採用プロセスには時間をかけました。長い人では応募から採用まで2年もかけています。それだけ時間をかければ、本当に良いエンジニアかわかりますし、そういう人を採用できれば、管理は完全に不要なんです。
小田中:なるほど。エンジニア組織としては理想的なあり方ですね。
倉貫:ただ、5年ほど前から新卒を採用するようになり、やり方を変える必要が生じました。若手は、まだセルフマネジメントが身についていないので、主体性に任せて放置するわけにはいきません。そこで導入したのが「徒弟制度」です。再現性のないナレッジワークでどう人を育てるかを考えたとき、一番良いのは「親方」が「弟子」を指導することだと考えたのです。
弟子は最初のうちはリモートワークをせず、出社して親方のもとで仕事を身につけます。さらに、一人前になるまでは自己流で進めるのではなく、まずは親方のやり方を真似て身につけていきます。そしてスキルの習得や今後の成長を、「段位」と呼ばれる基準に照らして判断されます。その後、弟子に任せる仕事の範囲や自由度を徐々に増やしていき、最後は親方から離れて、管理されずに働くようになります。
小田中:段階の設計はとても大事ですね。ルール説明もなしにゲームに放り込まれても、途方に暮れてしまいますから。段位の評価はどうしているのでしょうか。
倉貫:我々は、評価とは言わず「キャリブレーション(調整)」と呼んでいます。その際、我々が見るのは、本人が現時点で身につけている能力と、次の1年で何ができるようになるかだけです。段位の認定にあたっては、挑戦や失敗の有無、目標設定などに対する評価もありません。ただ客観的に、本人のありのままの状態だけを見て決めるのです。
これは親方一人ではなく、経営陣も含めて全員で行います。ですから親方は、弟子に対して「がんばったら給料が上がるぞ」という外発的動機付けは行えません。よくある上司と部下の関係では、人事評価も上司に与えられた権力のひとつです。しかし、親方は上司ではありません。弟子に対する権力は一切持たないのです。親方が弟子を育てるための唯一の武器は、圧倒的な実力を見せて尊敬されることしかありません。
小田中:つまり「この人が握る寿司が最高だから、この人の弟子になりたい」という、まさに職人の師弟関係のような感じですね。
倉貫:そうです。親方は権力ではなく権威で弟子を導かなくてはならない。そのために親方は、常に弟子の上位互換であることが求められます。ある意味、縛りプレイですよね。
