コロナ禍に直面した都庁デジタル環境の現実
GovTech東京理事長 宮坂学氏
引用:GovTech東京主催「GO!公共」イベント(以下、同様)
2019年、宮坂氏が東京都副知事に就任した当時、都庁のデジタル環境は、民間企業の感覚からは数周遅れの状況にあったという。Wi-Fiはおろか、庁内には紙の書類が山積みされ、会議には誰一人としてPCを持ち込まず、紙の資料だけが机上に並ぶ──それが、わずか6年前の東京における行政の中枢の姿だった。
2019年当時の都庁のデジタル環境
宮坂氏は当時の心境を振り返り、都庁という組織が抱えるポテンシャルと現実のギャップに愕然としたことを明かす。世界有数の巨大都市インフラを抱えながら、その運営を支える技術基盤は旧態依然としていたのだ。
この状況下で宮坂氏が直面したのは、単なるツールの導入やシステムの刷新といった表面的な課題ではなかった。それは、1400万人の都民、そして都内で活動する企業の生活と経済活動を支える「公共」というサービスの質を、デジタル化によって高めていくという壮大なミッションである。
特に、就任直後に世界を襲った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、行政のデジタル化が喫緊の課題であることを示した。ワクチン接種予約システムの混乱や、FAXによるやりとり。そのような事態は、宮坂氏にとって、行政DXの必要性を痛感させる原体験となった。
「巨大な船を作りたい」宮坂氏が考える行政デジタル化の第一歩とは
なぜ、行政のデジタル化はこれほどまでに困難なのか。多くの自治体がDXに取り組む中で、宮坂氏はその阻害要因に対する独自の仮説を立てていた。
通常の企業であれば、人材を集め、適切なポストに配置することから始まるだろう。しかし、宮坂氏は当時、「都政にはデジタル人材が活躍するための基盤が整っていないのでは」と考えた。そこで、東京都という組織の巨大さを鑑みたとき、多くの志ある人々を乗せることができる「巨大な船」が必要と考えたのだ。
この「船」を作る必要性の背景には、東京都が抱える切実な社会課題がある。宮坂氏は、東京を「100人の村」に例え、その内実を説明する。高齢者23人、子供11人、経済的支援が必要な人15人、障害や慢性疾患を持つ人21人など。これらは単なる統計上の数字ではない。行政の支援を必要とし、そのサービスが届かなければ生活が立ち行かない、リアルな数である。
東京都が持つフィールドの規模感
巨大なインフラと、支援を待つ多様な人々。この両者を繋ぐためには、既存の行政機構の枠組みだけでは不十分であり、デジタルテクノロジーを駆使できる新たな組織体が必要不可欠であった。宮坂氏の仮説は、「バッティングフォームを変えなければ、どんなにバットを振ってもボール(課題解決)には当たらない」という確信に基づいていた。GovTech東京の設立は、まさにこの「正しいバッティングフォーム」を手に入れるための構造改革だったのである。
