管理したい恐怖をどう乗り越えるか? ソフトウェアの本質と「内発的動機」
──「いい感じ」の中身について掘り下げていきたいと思います。お2人の共通点としてもうひとつ重要なのが、ソフトウェアが「一点もの」であるという認識です。そこで倉貫さんにお尋ねするのですが、「一点もの」を開発する上で、エンジニアにはどのようなスタンスが求められるのでしょうか。
倉貫:私たちは具体的な手段を細かく指示しません。考えることで価値を生む仕事なら、自分の考えに沿って動いたほうが生産性が高い。むしろ管理のような外発的動機付けは、内発的動機を損なってしまいます。
あるいは高額な報酬だけがモチベーションの源泉だとしたら、やがてそれは魅力ではなく当たり前の条件となり、報酬が減れば動機は失われます。一方、「納期に間に合わないぞ」「達成しなければ減給だ」といった外部からの脅しも、モチベーションを損なうことはあっても、高めることはありません。
これらが外発的動機が内発的動機を損なう具体例です。ですからエンジニアにとって重要なのは、「自分の仕事できちんと価値を生み出す」という責任を、主体的に引き受けようとする姿勢なのです。
小田中:納得感しかありません。一方で、倉貫さんは会社も経営されていますよね。私はさまざまな企業の経営層の方々とお話しする機会もあるのですが、内発的動機付けの重要性についてはみなさん同意するものの、信賞必罰などの管理なしでは不安だという声も聞きます。予算やスケジュールの制約がある中で、経営者がプレッシャーに晒されるのは避けられません。倉貫さんがどう対処しているのか気になります。
倉貫:管理を強化したところで、プロジェクトの成否には関係ありません。モチベーションの高低についても同様です。どちらにせよ、達成できるものは達成できるし、できないものはできない。経営者やプロジェクトマネージャーが見るべきポイントは、プロジェクトの要件に無理がないかどうか、現実的なスケジュールかどうかといった客観的な事柄です。そこにやる気を持ち出さないほうがいい。
小田中:そのように割り切れるのは、倉貫さんご自身がエンジニアとしての勘所をお持ちだからでしょうね。
倉貫:多くの経営者は、ソフトウェア開発を工場でのハードウェア製造のように捉えています。ソフトウェアの本質がわからないまま経営をしていると、成果物の中身がボロボロであったとしても、要件定義と納期が最優先で、「とりあえず作ればいい」という発想になりがちです。その後の運用は考えていませんし、日本のソフトウェア開発では、開発と保守・運用を別々の会社が担うケースも珍しくありません。しかし私からすれば、こうした進め方には問題があると感じています。
小田中:本当にそのとおりです。運用のことを考えずに作られたソフトウェアの運用を任されるなんて、まさに苦行ですよね。
倉貫:そうなると、「やっていられないから、その分たくさんお金をもらう」「そうした仕事をお願いするために、高い報酬を払う」といった構図になり、最終的には顧客にも多くの費用を負担してもらうことになります。そんな気持ちで運用されているシステムがうまくいくはずがありません。つまり、外発的動機付けに頼るほどコストが膨らみ、無駄も増えてしまうのです。
小田中:先ほどのお話とつなげると、外発的動機付けを駆使しても、コストが高く、質の低いソフトウェアが生まれてしまうということですね。その結果、顧客にとっては望ましくない結果に終わってしまう。一方、内発的動機に基づくソフトウェア開発は、追加コストを防ぎ、より質の高いものを生み出す可能性が高い。エンジニアにとって内発的動機がなぜ重要なのか、改めて実感しました。
