「使う」8割、「作る」1〜2割の溝
御田稔(みのるん)氏は会場に2つの質問を投げかけるところから講演を始めた。AIエージェントを使ったことがあるかという問いにはほぼ8割の手が挙がったが、AIエージェントを作ったことがあるかと重ねて聞くと、挙手は1〜2割まで減った。この落差こそが今回のテーマである。
2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれたが、みのるん氏の見立てでは実態はAIエージェント「利用元年」だった。CursorやClaude Code、Codexといったコーディングエージェントがエンジニアの間で急速に普及し、プログラミングという「LLMが得意な仕事」ではユースケースがはまった。その一方で、コーディング以外の業務自動化はまだ活用が道半ばだという。
普通のLLMは一問一答が原則となる。たとえば、「日本の首都はどこですか」という問いに「東京です」と答える。AIエージェントは依頼を受けると計画を立て、ToDoリストを作り、必要に応じてツールを使って外部のSaaSやAPIにアクセスし、行動の結果に応じて計画を修正しながらゴールに到達するまでループを回し続ける。ツールを使えるということはAIに読み物や調べ物をさせるだけでなく、メール送信やカレンダー登録、社内システムの操作など、人間がパソコンで行っている作業のほとんどを代行させられることを意味する。
この力を示す社内事例として、みのるん氏が紹介したのが、KDDIアジャイル開発センター株式会社がKDDI向けに提供する本部長AIエージェント「A-BOSS」だ。これは、実在するKDDIの本部長に代わって営業の提案資料をレビューするエージェントで、パワーポイントをアップロードするだけで使える。このことから社内で広く利用され、JR西日本もこの導入事例を発表したという。
もう1つの例が、みのるん氏が個人で無料公開し登録ユーザー1,700名を超えた「パワポ作るマン」だ。壇上ではGoogleログイン後に「デブサミ2026関西のAIエージェント関連おすすめセッション紹介資料を作って」と依頼し、裏側でAmazon Bedrock AgentCore上のエージェントがTavilyでWeb検索してスライドを組み立てる様子を実演した。
スライド生成には20秒ほどかかるため、待たせている間に飽きさせないよう5秒おきにTipsを表示するなど、ストリーミングレスポンスとリアルタイム描画によるUXが作り込まれている。スライド自体はMarpというマークダウン駆動のOSSをCLI経由でエージェントに使わせており、文字のはみ出しもエージェント自身が検知して修正するという。営業が社内のAI活用事例を把握できるように作った「AI社内事例おしえて君」というSlackボットも紹介された。
令和のAIエージェントは3行で書ける
こうした事例を前に「作るのは難しいのでは」と身構える聴衆に対し、みのるん氏は「実はもう相当簡単に開発できるのが現状」だと畳みかける。かつてAIアプリ開発はデータサイエンティストや機械学習エンジニアがPythonとJupyter Notebookを操る敷居の高い世界だったが、今は難しい機能がAPIやSDKとして抽象化され、普通のWebエンジニアでも自分のアプリにエージェント機能を組み込める武器になっている。
LangChain、TypeScriptに特化したMastra、AWSがオープンソースで公開するStrands Agentsなど人気フレームワークが続々と登場している。共通するのは、シンプルなコードで書けることだ。実際、Strands Agentsであればfrom strands import Agentから始まるわずか3行のコードをメモ帳に書いて保存して実行するだけで、裏でBedrockを使ったエージェントが動く。
ここまでは順調だが、問題はこの先にある。ローカルで動くエージェントを同僚やお客さんに使ってもらうには、クラウドへのデプロイという、もう一段高い壁が待っているのだ。
