「Vibe商談」で拾う、言葉になる前の要件
技術的な下地が整った一方で、AIエージェントを使っているのはまだエンジニアだけだと、みのるん氏は指摘する。本当の価値が伝わらないままブームだけが冷めてしまうのではという危機感から、2026年は「ユースケースの発掘と社会実装」に注力しているという。
その一つが、プリセールスとして営業に同行する商談の場で、顧客の要件を聞きながらその場でAIエージェントのデモアプリをこっそり作り上げる「Vibe商談」だ。商談の終盤に「もしかして欲しいのはこれですか」と動くものを見せると、顧客自身も気づいていなかった真の要件が引き出されるという。
この半年〜1年ほどでVibe商談から育ったユースケースとして、開発案件の各工程に伴走してレビューしてほしいという金融機関、視聴データの集計を任せたいというコンテンツ企業、全社で安全に使えるエージェント基盤を整えたいという製造業の相談が挙がった。
もう一つの実践が、自身の業務すべてをClaude Codeで爆速化することだ。経費精算や勤怠申請、出張手配といった日常の雑務から、商談アジェンダの作成や議事整理、講演依頼の整理やスライド作成、謝礼処理まで任せている。
みのるん氏はコーディングエージェントを「RPAのような自動化ツール」ではなく「総合コンサル出身の優秀な中途社員が4人ほどフルリモートでアサインされてきた」と捉えるべきだと説く。
経費精算であればマニュアルとシステムのURLを渡し、「先月のClaude利用料をGmailの領収書とクレカ明細から精算し、他の行は黒塗りにしてfreeeに申請しておいて」と依頼すれば、人間は最後にログインして送信ボタンを押すだけで済む。プロジェクトワークでは案件専用フォルダに資料や文字起こしを集約し、頻出作業はスキル化してGitHub Enterprise経由でチームに共有する。新しくアサインされた同僚にも「このリポジトリをクローンしてClaudeに聞いておいて」と伝えるだけでオンボーディングが完了した経験も明かした。
あなたの仕事を奪うのはAIじゃない
社内ルールが古くClaude Codeを使わせてもらえない場合は、Bedrock経由でClaudeのAPIを使うところから始め、SaaS連携やブラウザ操作が禁止されている場合はコピペしやすいHTMLを生成させる「半自動化」でも十分に効果があるとみのるん氏は言う。
スライド作成のような日常業務にも、いきなり完成品を作らせず目的・読者・制約を渡して骨子を壁打ちし、最後の1割だけ人間が仕上げる「仕様駆動」のアプローチが有効だと語った。具体的には、要件をダンプするPLAN.md、仕様を固めるSPEC.md、進捗を管理するTODO.md、学びを蓄積するKNOWLEDGE.mdの4枚で作業を回していると明かした。
これらの作業ディレクトリはモノレポにまとめるほど蓄積したコンテキストが効き、「先週のあれ」で通じる阿吽の呼吸が育っていくのが複利効果だという。半年前まではAI生成に否定的だったみのるん氏自身、Claude Opus 4.6の登場でエージェントの実力を見直し、この講演のスライドも仕様駆動で作ったという。
RAGやチャットボットが全盛だった1〜2年前に比べ、AI案件の引き合いはむしろ減っていると、みのるん氏は指摘する。AIエージェントで何ができるか顧客自身がピンとこず、要件が出てこないからだ。だからこそエンジニアには、要件を待つのではなく「その要件、RAGじゃなくAIエージェントにすればこう便利になりますよ」と一歩踏み込んで提案する姿勢が求められる。
ビジネスサイドの人材も技術に関心を持ち、自らの業務を検証するエージェントを試すことで、役職にとらわれず楽しんで越境できるフルスタック人材が無双する時代になると、みのるん氏は語る。
「あなたの仕事を奪うのはAIじゃない」
AIの力で10人分の仕事をこなす、隣にいる意識の高い同僚こそがその実態なのだと述べ、まずは自分の日常業務をAIエージェントに任せてみることから始めてほしいと呼びかけて講演を締めくくった。
