受賞企業3社が語る、技術広報戦略
受賞企業を代表してパネルディスカッションに登壇したのは、LINEヤフー株式会社の善積正伍氏、クラスメソッド株式会社の大橋力丈氏、日本電気株式会社の高雄悠太氏の3人だ。
最も具体的な変化を語ったのはクラスメソッドの大橋氏だった。同社は元々コーディングテストを採用選考に取り入れていたが、「もう意味がないよね」と1年ほど前にやめたという。代わりに導入したのは、AIにわざと質の低いコードを書かせ、それを候補者にレビューさせる方式だ。「どこを見ているのか分かるし、応募者の負担も減った」と大橋氏は語る。2次面接での離脱を防ぐ狙いもあったといい、実際に採用の回転は速くなったという。
同社の強みは18年続くテックブログだ。「うちの会社って“ブログの会社”とか“AWSの会社”とか言われるが、それは合っている」と大橋氏。ノルマもなく、エンジニアが好きなことを好きなだけ書き続けた結果、圧倒的な発信量が生まれたという。一方でAI時代への向き合い方も明確だ。AIによる代筆は禁止し、「まずエンジニア自身が一次情報に触れ、自分たちでフィルタリングして届ける」という姿勢を崩さない。「開発組織ブランドアワード」の個社レポートについて「Claudeで分析したら『好感度は高いが、採用にはなかなか結びつかない会社』と評価された」と明かし、会社としてどんな取り組みをしているか発信することの重要性を実感したという。
日本電気の高雄氏が語ったのは、67位、34位という過去2回の順位から今回25位へと着実に上げてきた背景だ。数年前から続けている、経営層が毎月直接技術者へ戦略を伝えるタウンホールミーティングが、戦略と現場の行動を結びつける役割を果たしているという。10月には子会社との合併で社員数が約3万7,000人規模になる同社では、社内エンゲージメントをサーベイで定点観測し、トップの発信が現場にどう伝わっているかを継続的に確認しているそうだ。
LINEヤフーの善積氏は、この1年で自社のテックカンファレンス「Tech-Verse」の構成を、従来のフロントエンドやiOSなど12カテゴリーから、「AI」と「コアテクノロジー」の2カテゴリーに絞り込んだと明かした。「技術領域を区切ってコミュニティを盛り上げるより、ものづくりのやり方そのものの変化を伝える方が大きくなった」という判断だ。テックブログのレビューや登壇資料の確認といった、これまで人手で担っていた業務もAIに置き換えつつあるという。
AIの普及により、自然と生まれる職種の越境
技術広報の成果指標について尋ねられると、3社の答えはそれぞれ異なった。善積氏は発信した内容が社内にどれだけ還元され、実際に使われているかを追いかけていると答え、大橋氏は「明確なKPIはない」としつつ、週次でSlackに共有される反響やPV数の推移を参考にしていると語った。高雄氏は社内サーベイによるエンゲージメントの定点観測を挙げつつ、「数字の良し悪しで判断するのではなく、結果を受け止めて各組織がありたい姿を模索していくのが今のアプローチ」だと述べた。
最後のテーマは、AIによってエンジニアの役割そのものがどう変わるかだった。高雄氏は「コーディングができなくなった、というより、顧客の課題にどれだけ向き合えるかが問われる時代になった」と述べ、社内では職種を越えてデザイナー領域に染み出していく人材が自然に生まれていると明かした。善積氏も「ものを作るという概念が、もうエンジニアだけのものではなくなっていく」と応じ、開発者体験を支える立場自体が、エンジニアだけでなく企画やデザインまで含めてコーディネートする存在に変わっていくとの見立てを語った。
登壇者3人は口をそろえて「まだ答えのない過渡期にある」と語り、ディスカッションを締めくくった。テストや品質、大企業の堅さといった従来のイメージを塗り替えてきた企業も、AIという新しい変数を前に、次の発信のかたちを模索し続けている。
