GitLab Epic Tour Japan 2026に、クラウドエース株式会社の代表取締役社長兼CTOである高野遼氏が登壇した。テーマは「速く作るほど、壊れていく」。高野氏自身が開発者1名で、生成AIとともに社内基幹システムを5カ月で刷新した経験から語られたのは、速度と引き換えに失われる「なぜそう作ったのか」という設計意図の問題だ。同社はそれを「Software DNA」と呼ぶ仕組みで記録し、GitLabのCIパイプラインとDuo Agent Platformで検証している。
理由が分からず「不要」と判断したものが実は必要だった
話は高野氏自身の実体験から始まった。クラウドエースは2025年10月、商談管理や販売管理、CRMを担うSaaSを自社スクラッチ開発へ置き換えるプロジェクトに本格着手した。リリースは2026年2月。期間は5カ月で、開発者は高野氏のみ、1名体制で進めた。
コードはAIと共同で作成した。業後に高野氏がAIと共にコードを書き、日中は業務部門がテストする。この進め方を2カ月ほど続けた。当時のモデルは現在ほど強力ではなく、「大変苦労しました」と振り返る。
速度を最優先し、仮説ベースで一度作り切って途中では確認しない、と割り切った。コーディングエージェントへの指示はこうだ。PMとして司令官を務め、サブエージェントを使ってよいが、なるべく安価なモデルを割り当ててほしい。そして、肝心なのがこの次だ。「僕は今から寝るので、僕に何も聞かないでください。一旦仮説ベースで進めていただいて、後で質問するようにしてください」。当時、現在のようなAutoモードはなかったため、このようなプロンプトでAIを稼働させた。
狙いどおり開発速度は出た。だが開発後半のユーザー確認で、修正と手直しが大量に発生する。原因は、画面に現れない用途の見落としだった。分析にだけ使われていたデータ、特定の部署だけが使っていた機能、歴史上の経緯から必要になった一見不合理な業務。創業当初から所属する高野氏からしても、「これは使っていないでしょう、と思うものがたくさんある」状況だったという。しかし結果的には、「不要」と判断したものが実は必要だったのだ。
AIによって解釈が埋められることで開発が崩れていく
高野氏は開発プロセスの中で発生した課題を2つにまとめる。1つは「必要だと判断して作ったものが実は不要だったこと」、そしてもう1つが「過去に誰かが必要だと判断して作ったものを、もう誰も覚えていないこと」。その両方が同時に起きていた。高野氏が実体験から「なぜこのソフトウェアになっているかという意図は、プロジェクトが終わると比較的失われます」と語るように、記録がなければ、存在意図も設計の勘所もすぐに失われるのだ。
AIで速く作るときに意図が崩れる方向は2つあると整理する。1つは、決めたことが消える方向だ。過去に理由があって決めた仕様が、その理由を記録していないために、あるいは理由そのものが陳腐化したために「不要」と判断されて削除される。先の手戻りはこちらに当たる。
もう1つは、決めていないことが増える方向だ。生成AIは、少ないプロンプトという小さな入力から、ソースコードという大きな出力を作る。その差は解釈で埋められる。「解釈をゼロにするということは、ソースコードを与えてソースコードを作るということですから、生成AIの本質的な価値がなくなってしまいます」。動作もテストも問題はないが、誰もそう決めてはいない部分が増えていく。
GitLabが2026年6月に公表した調査では、1500人以上の開発者と技術リーダーのうち73%がコードの保守に不安を抱えている。一方、ソフトウェア開発ライフサイクル全体で生産性の向上を実感しているのは21%にとどまる。「AIによって解釈が埋められることは今後一番重要になってくる問題」と高野氏は語る。
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- この記事の著者
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中野 佑輔(編集部)(ナカノ ユウスケ)
金融系SIerでの勤務を経て2025年よりCodeZine編集部所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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