15年続く絵本シリーズのこだわり
――『プログラムの絵本 プログラミングの基本がわかる9つの扉』は翔泳社がアンクの皆さんと長年にわたって取り組んできた入門者向けの絵本シリーズの最新刊です。本書についてうかがう前に、この絵本シリーズについて教えてください。
高橋:絵本シリーズが始まったのは2002年、『Cの絵本』が最初です。弊社からの持ち込み企画でしたが、そのきっかけは弊社の新入社員研修でした。彼らにC言語のプログラミングの説明をしてもなかなか理解してもらえず、分かりやすい書籍があるといいなと思ったんです。私自身がイラストで理解することが多いので、絵本のようなテキストを作ることができればと考えてこの形式にしました。
絵本シリーズはイラストで理解してもらうというコンセプトがしっかりしていますから、レイアウトもこだわっています。一つひとつの項目は見開きで完結しますし、解説はできるだけ1段落を3行以内に収めています。
当初のコンセプトではもっとイラストを多くして、図解のようにしてもいいかなと考えていましたが、作ってみたら今の形になったんですね。文章があまり少なすぎても理解できなくなって逆効果ですから、15年も続いてきた今、これでよかったのだと思っています。
絵本シリーズのプロジェクトとしては、私が企画して目次や構成を作って監修しています。しかし、弊社はソフトウェア開発の会社で、執筆は主業務ではないため、扱うテーマに詳しい社員や手が空いている社員に任せています。今回はメイン執筆者として、弊社で最も若い佐藤が担当しています。イラストは意図や表現を細かく調整する必要があるので、イラストレーターは出版社側にお任せするのではなく、弊社から直接依頼を出しています。
――佐藤さんは今回執筆されていかがでしたか?
佐藤:プログラムという大きいテーマだったので少し不安はありましたが、目次や全体の構成案を出してもらえたので、そこまで悩まずに書けました。ただ、あくまで初心者向けなので、知識のまったくない方が読んでも「なるほど」と理解できるように書くのは、テーマが大きい分、難しく感じましたね。
――実は絵本シリーズは本書からカバーデザインがリニューアルされ、これまで刊行したものも順次改訂していく予定です。そこで佐藤さんにお尋ねしたいのですが、改訂で手がけてみたいテーマ、もしくは新しく執筆してみたいテーマはありますか?
佐藤:知り合いに扱っている人が多いのでPHPが最初に挙がりますね。まだないテーマでいえばSwiftです。Objective-Cはありますが、かなりSwiftに移行している人が多いような印象があります。
高橋:Swiftをテーマにした本を刊行するうえで、普及度でいうとハードルはないかなと思いますね。
詳しい人が誰かに教えるためのテキストとして
――では、改めて本書についてうかがいます。そもそもですが、本書はどういった意図で書かれたのでしょうか。
高橋:絵本シリーズはたくさん刊行しており、個々の言語やOSの仕組みのような内容はカバーできています。本書はそれらの隙間を埋めるような1冊を目指しました。プログラミング言語などの専門分野を学ぶ前に、基礎知識を蓄えるために読んでもらいたい本ですね。
ざっと概要を紹介しますと、前半にあらゆるプログラムに共通する事柄をまとめて説明し、後半で最近の技術のトレンドを広く取り上げて解説しています。
――先ほど初心者向けとおっしゃいましたが、具体的にはどんな読者を想定していますか?
高橋:これからプログラミングを始めたい方で、プログラミングがどういうものか分からない、何から始めればいいのか分からない、どんな言語があるのかも知らないという方です。
絵本シリーズは不親切だと言われることがあるんですが(笑)、それは文章を絞って簡潔に書きすぎているからかもしれません。ですので、詳しい人が誰かに教えるためのテキストとして使っていただくのもいいのではないでしょうか。
佐藤:IT業界に入ったばかりでどの分野を勉強しようか思案している方も対象ですね。少し知識がついて分かってきたなと感じているときに、改めてきちんと学び直すきっかけにしていただくといいのではないでしょうか。
プログラムに関する知識をイメージで覚えられる
――絵本シリーズはそれぞれの書籍で工夫されている点が異なると思いますが、今回はどういったところに特徴がありますか?
佐藤:本書を読めば何もかも理解できるわけではありませんが、読み終わってどんどん勉強を進めるうち「この用語、あの本に書いてあったな……何だっけ」と思ったときに開き直して確かめやすいのが大きな特徴ですね。プログラムの知識をイメージで覚える本は他にはなかなか見当たりませんから。
文字が詰まった何百ページもある解説書だとそもそもどんな用語があったかも覚えにくいかもしれませんが、本書だと用語とイラストが一緒に思い浮かんでくると思います。プログラミングに慣れていない方、勉強してなんとなく知識がある方にはこの手軽さがかなり有用なのではないでしょうか。
高橋:もちろんイラストより文字のほうが理解できて知識が定着しやすい方もいると思いますが、絵本ならではのよさは実感してみてもらいたいですね。
佐藤:やはり何も知らないと、プログラミングは「難しそう」「ハードルが高い」というイメージだけで「やりたくない」と思ってしまいがちですので、まずはぱっと見て全体像を掴める本書を手に取ってみてもらえればと思っています。
例えば、本書の項目になっている「プロシージャ」という用語は初心者には難しいでしょう。ですが、少なくとも一つの項目として立てられるものなんだと認識することはできます。こうしたエッセンスにイラストで触れることで、大事な用語や概念に具体的なイメージを持てるはずです。
高橋:「第6章 プログラミング言語の種類」ではさまざまな言語を紹介していますが、言語中心ではなく用途別に解説しているので分かりやすいと思います。動的なWebページを実現するならPHP、Windowsのアプリケーション開発ならC#、MacならObjective-Cと、どういうところでどの言語が使われているのかを知ってもらうことができます。例としてコードも記載していますが、これはあくまで雰囲気を掴むためのものですね。
佐藤:中身は濃厚なんですが、見た目は手軽という本を目指したわけです。
――その濃厚さを、文章では3行に詰め込まれたわけですね。
高橋:4行だと私からリテイクを入れます(笑)。最近は徹底しきれてはいませんが、簡潔で分かりやすい言い回しは必須ですね。
佐藤:私もうっかり書きすぎたところはあります(笑)。
勉強したい言語が見つかる大人向けの絵本
――5月に弊社から本来的な意味での絵本である『ルビィのぼうけん』を刊行しました。小学生以下の子供が主な読者ですが、本書はそれと比べてどういう立ち位置の本だとお考えですか?
高橋:絵本シリーズを企画したときは中学生が読めるものを意識していました。私自身が中学生の頃にプログラミングを始めたので、当時の自分が読んで理解できるものということですね。小学生には多少難しいので、そこに違いがあります。
佐藤:『ルビィのぼうけん』でプログラミングやコンピュータに興味を持った子が次に読む本としていいのではと思います。「プログラムって何だろう」「プログラミングってどうやるんだろう」と思ったとき、本書が役に立てますね。
高橋:読み終わったあと、プログラミングに対するハードルが下がったと感じてもらえると嬉しいです。特に、どの言語で何ができるのかが分かるようになるので、勉強したい言語が見つかるといいなと思っています。