コードレビューを「衝突の場」にしないための方法
株式会社万葉フェロー兼NPO法人Waffleのカリキュラム・マネージャーを務める鳥井雪氏は、Webプログラマーとして15年以上の実務経験を持つエンジニアだ。『ルビィのぼうけん』をはじめとするプログラミング関連書籍の翻訳・執筆に携わり、2024年にはForbes JAPANが選出する「Women in Tech 30」にも名を連ねた。長年所属してきた株式会社万葉にもフェローとして関わり続け、技術と教育、そしてチームづくりの両面から開発現場を見つめてきた。
本セッションでは、鳥井氏の著書『伝わるコードレビュー』を起点に、「コードレビューを通じて、いかに“伝わる”チーム組織をつくるか」というテーマが語られた。
『伝わるコードレビュー』は、鳥井氏と久保優子氏、諸永彩夏氏(いずれも株式会社万葉)による共著で、全3章から構成されている。
第1章の「心構え編」では、コードレビューとは何か、なぜ難しいのかを整理した上で、レビューの基本となる5大ルールを提示する。
第2章の「実践編」では、架空の開発現場を舞台に、レビュー時に起こりがちなコミュニケーション上の課題を具体的に描き、その解決の糸口を示す。
そして第3章の「Tips編」では、迷ったら早めに相談する、時間を決めて問題に向き合うなど、明日から現場で使えるグッドパターンとバッドパターンを紹介する構成だ。
鳥井氏はまず、「本書は単なるコードレビューの手引書ではない」と強調する。「そもそもコードレビューとは、レビュアーとレビュイーが戦う場ではなく、よりよいコードに向かって、2人3脚で進んでいく行為だ」とコードレビューの在り方について述べた。その上で、本書の焦点はコードそのものではなく、レビューという行為を通じたテキストコミュニケーションの在り方を示すことだと語った。
本書の背景にあるのは、テキストコミュニケーションの比重が大きく増した現代の開発環境だ。かつては同じ空間に集まり、ホワイトボードを囲んで議論することが当たり前だった。しかし現在では、SlackやGitHub、Notionなどを通じて、意思疎通の多くがテキストで行われている。開発者が日々読み書きする文章量は、過去とは比較にならないほど増えているのが実情だ。
ところが、テキストコミュニケーションには、文脈や感情、声のトーンが伝わりにくいという構造的な難しさがある。何気ないメッセージが命令や批判として受け取られてしまう場面もあれば、先輩エンジニアが投げかけた質問が、新人にとっては否定や詰問のように響いてしまうこともあるだろう。
コミュニケーションのすれ違いを避けるためには何が必要なのか。鳥井氏が示すのは、「信頼し合うチームの土台をつくる」という方向性だ。ここで言う「土台」とは、相手の意図を勘ぐらずに済む関係性を指す。信頼が十分に築かれていれば、短いやり取りであっても、その意図はより正確に受け取られやすくなる。
しかし、その信頼は自然に生まれるものではない。信頼を築くために欠かせないのは、効率的で率直であり、余計な含みや他意を持たない「ちゃんとしたコミュニケーション」の積み重ねだ。
「ちゃんとしたコミュニケーション」によってを積み重ねることで信頼が育まれ、その信頼がさらに率直で効率的なやり取りを可能にする。この循環こそが、鳥井氏の言う「伝わるチーム」を支える基盤となる。
